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エリアマーケティングラボ
今回のマンスリーレポートでは、生活者をターゲットとした国内最大の公的な統計データである国勢調査を用い、時系列比較をテーマとした分析事例をご紹介します。
月刊GSI 2018年9月号(Vol.87)
本年、2015年に調査が行われた国勢調査の小地域版(メッシュデータ)がリリースされました。商圏分析・エリアマーケティングでは、最新データを用いて店舗の商圏やターゲットエリアの分析を行うことは基本中の基本です。最新データを用いた分析は昨年11月のマンスリーレポートでもご紹介しました。
時間の経過とともに地域に住む人々の年齢も当然変化します。つまり商圏構造が変化するということです。先に紹介した過去の記事では、小地域単位のデータに先行して公表された市区町村単位のデータを用いており、商圏分析においてはいささか広域なエリアの増減数の比較を行いました。店舗展開を行うチェーン企業においては、自社店舗の商圏の変化を捉える必要があり、小地域単位のデータを用いた分析が必須です。小地域単位のデータから商圏構造の「過去」と「現在」を比較することで、「以前はどのような地域特性だったのか」、「どのように変化してきたのか」をさらに深く知ることができます。
今回は、商圏分析GIS「MarketAnalyzer™」で自動出力できる「国勢調査の時系列比較レポート」を用いて、商圏構造・商圏内居住者特性の時系列比較について解説します。
毎年、株式会社リクルート住まいカンパニーが不動産・住宅サイトであるSUUMOの調査による「住みたい街ランキング」を公表しています。20~49歳までの方を対象に、住みたい駅を調査しランキング化したもので、エリアの人気度を表す指標になっています。
SUUMO「住みたい街ランキング2018」
https://suumo.jp/edit/sumi_machi/※外部サイトへリンクします。
これまでの住みたい街ランキングでは、吉祥寺や恵比寿がランキング上位の常連でしたが、2018年の結果を見るとどの年代も「横浜駅」が1位です。そんなトレンド地域である横浜エリアは、本当に人気エリアなのかを分析してみましょう。
まず、分析エリアとして、JR横浜駅を中心とした半径1km圏を設定しました。そのエリア内の人口増減数を2010年と2015年の国勢調査から算出、比較しました。本当に多くの人が住みたい地域だと考えているならば、人口の変化としては、流入・増加している様子が確認できるはずです。
【横浜駅半径1km圏内の時系列比較レポート】
上記のようなレポートがMarketAnalyzer™では自動出力できます。それぞれの項目を見てみましょう。
【図1:人口、世帯増減】
まずは人口総数と世帯総数の変化に注目します(図1)。大正9年から実施されている国勢調査ですが、2015年の調査で初めて総人口が減少しました。一方、横浜駅がある神奈川県は人口数が増加しており、その中でも横浜駅1km圏内においては、人口が105.9%、世帯が107.9%に増加しています。これは横浜駅周辺の人口増が神奈川県の人口増を牽引していることを表しています。この時点で横浜駅エリアの人気度が高い様子がうかがえます。
人口増といっても、すべての世代が増加したのか、一部の世代のみが増加したのかによって、街の特性は大きく変化します。次は人口増の要因となっている年代を確認するため、性・年代別の人口増減を見てみます。
【図2:性・年代別人口増減】
国勢調査には5歳刻みの性・年代別人口の項目があり、年代ごとに人口の増減を比較することができます。図2の左側の表は性・年代ごとの人口で、右側はそれをグラフで表現しています。
左側の表を見てみると、男女ともに10代と40~50代の人口が増え、20~30代の人が減少しています(青色で増加、赤色で減少を示しています)。この結果だけを見ると、10代と40~50代の人たちが流入し、20~30代は流出してしまったように感じますが、そうではありません。表の数値のみで傾向を把握することは容易ではありません。傾向を読み解くため右側の折れ線グラフを用います。そして次の2つの部分を検討するとよいでしょう。
【図3:性・年代別人口ピラミッドの時系列比較】
1つ目は、緑の点線で囲った部分です。2010年(赤線)と2015年(青線)は同じ形をしており、ちょうど青線(2015年)が5年分上にあることがわかります。つまり2010年時点で35~49歳の世代が5年の経過とともに5歳年をとり、その分グラフが上昇し、2015年には40~50歳代の世代に移っていることが読み取れます。この年代はおそらく横浜エリアに5年間変わらず住み続けているのでしょう。
2つ目は、青い点線で囲った20代~30代の若い世代です。2010年と2015年のグラフを比較すると、5年が経過しているにもかかわらず、波形がほぼ重なっている特徴が見受けられます。
エリア内で人口の流入・流出がない場合は、先の35~49歳の世代と同様に2010年の折れ線が同じ波形で5年分上にシフトするはずです。しかしグラフの波形が重なっているということは、他のエリアからその世代の人(20代~30代)が流入してきたことを意味します。
単純に増減数のみで判断すると、2010年時点で20~30代の人たちが他エリアに流出してしまったように考えがちですが、実はその世代の人たちが人口増加の要因になっていることがわかります。結果として、「住みたい街ランキング」で調査対象となっている世代の人たちが多く流入していると考えられ、ランキングの通り、横浜エリアは人気のエリアと言えるでしょう。
横浜エリアの分析のように、トレンド地域には若い世代の人口流入が多いのではないかと推測されます。先程までは、1つの地域で時系列比較を行ってきましたが、ここからは複数のエリアで時系列比較をし、共通の変化が見られるのかを分析します。
横浜エリアと「住みたい街ランキング」上位の常連である恵比寿エリアを比較しました。
【図4:横浜駅と恵比寿駅周辺の比較】
2つのエリアにおける年齢別人口増減のグラフを見てみると、大きく3つの共通点がありました。
1つ目は、流出人口は少なく、20~30代の人たちの流入が多いエリアということです。両エリアとも2010年における30代以上の年代のグラフが2015年には5歳分上にスライドしており、その一方20~30代の人たちのグラフはほぼ重なっています。吉祥寺駅エリアも横浜駅エリアと同様の傾向があるといえます。2つ目は、年代別人口のボリュームゾーンが30代近辺を中心としている点です。20~49歳までの人口が多く、50歳以上の人口が少ないため、エリア全体の平均年齢は比較的若いと推測されます。3つ目は、0~4歳の人口が増加しているということです。おそらく、20~49歳の親世代が2010年から2015年の間で出産し、2015年時点での0~4歳となる子供世代とファミリー世帯を築いていると推測されます。
上記の内容から、住みたい街ランキングの上位エリアは、若い方の流入が多く、さらにファミリー世帯も多いエリアであると言えるでしょう。
ここまでは住みたい街ランキングから横浜駅や恵比寿駅周辺の特性を把握しましたが、他に年代構造が似ている地域(駅)はあるのでしょうか。商圏分析・エリアマーケティングでは、ベンチマークしたエリアと類似したエリアを抽出して出店や販促、成功事例の横展開につなげるという手法がよく使われます。
そこでまず、東京都内の駅すべてに半径1km圏を設定し、圏内の年代別構成比を算出します。各年代別人口を偏差値化し、横浜駅1km圏内における各年代の偏差値との差がすべてプラスマイナス10以内に収まる駅をピックアップしました(図5)。
【図5:横浜駅1km圏と年代構造が類似する東京都内の駅】
その結果、六本木一丁目や新富町などの8駅が類似する駅(エリア)でした。これらのエリアは住みたい街ランキングの上位にはランクインしていませんが、トレンド地域と似ている傾向があることから、出店や販促を行った場合同様の結果が得られる可能性があります。このように地域の特性を把握し、その特性を用いて似たエリアを検索することで、個々の分析では把握できなかった、新たなエリアの特性を発見することができます。
今回は国勢調査データを用い、トレンド地域の時系列比較と特性についてご紹介いたしました。時系列比較というと難しいイメージがあるかと思いますが、時系列レポートを見るだけで、より地域の特性を把握することができます。読み取り方も様々ですが、時系列比較の際に参考にしてみてください。
技研商事インターナショナルのGIS(地図情報システム)は「国勢調査の時系列比較レポート」が自動出力でき、商圏構造・商圏内居住者特性の時系列比較がしやすい設計になっています。当社ウェブサイトにてご紹介していますのでご参照ください。
監修者プロフィール市川 史祥技研商事インターナショナル株式会社 執行役員 マーケティング部 部長 シニアコンサルタント |
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医療経営士/介護福祉経営士 流通経済大学客員講師/共栄大学客員講師 一般社団法人LBMA Japan 理事 1972年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。不動産業、出版社を経て2002年より技研商事インターナショナルに所属。 小売・飲食・メーカー・サービス業などのクライアントへGIS(地図情報システム)の運用支援・エリアマーケティング支援を行っている。わかりやすいセミナーが定評。年間講演実績90回以上。 |