エリアマーケティングラボ

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~業界の最新動向~

オープンデータを活用してみよう~地価公示データと各種統計データとの相関を見る~

GISを用いたエリアマーケティング分析では、自社保有のデータとオープンデータを組み合わせることも重要です。本レポートでは公示地価のデータを例に、オープンデータの活用についてご紹介します。

月刊GSI 2018年11月号(Vol.89)

地価公示データを俯瞰する

■地価が高いエリアはどこか。

 「東京都中央区銀座4-5-6」、ここは2018年1月1日時点で地価が日本一高い場所で、1平米あたり5,550万円です。2008年のリーマンショック以来しばらく下落を続けていましたが、2014年以降は再び上昇に転じ、現在は5年前の2013年の地価と比較すると2倍以上になっています。

 この銀座4丁目以外でも、2018年の公示地価の上位は銀座、丸の内、大手町などの東京駅周辺、新宿、渋谷等の商業地が占めています。

 現状、全国で地価が平米あたり1,000万円を超えているのは47地点ですが、東京が40地点、大阪市が5地点、横浜市と名古屋市で1地点ずつと、ほとんどが東京に集中しています。では、上昇・下落の傾向はどうでしょうか。

■地価が上昇したエリア

地価が上昇した地点

地価が5%以上上昇した地点

 高額地価が東京に集中している一方、地価が上昇した地点は首都圏以外の全国の大都市周辺を中心に分布していることが見て取れます。さらに、地価が5%以上上昇した地点となると、政令指定都市などの大都市およびその周辺に集中しています。

■首都圏の地価上昇傾向

 首都圏に限った場合、地価が上昇している地点は東京駅を中心に半径40㎞圏内の鉄道沿線に集中しており、さらに上昇率5%以上の地点に絞ると、東京23区内に集中しています。

首都圏の地価上昇地点

首都圏で地価が5%以上上昇した地点

■首都圏以外の地価上昇傾向

 地価の上昇率が10%を超えた地点は全国で441地点に上りますが、大阪府が91地点と群を抜いて多く、北海道、愛知県、福岡県が50地点以上と、地方の大都市およびその周辺が上昇傾向にあることが伺えます。

地価上昇率が10%を超えた地点を詳しく見ると、左図のように、大阪市福島区、西区、浪速区、北区、中央区の商業地域に84地点が集中しています。

 北海道では札幌市の地下鉄沿線の商業地域に、愛知県では名古屋市内の地下鉄沿線の商業地域に、福岡県は博多を中心とした地下鉄や私鉄沿線の商業地域に、地価上昇地域がそれぞれ分布しています。

北海道

愛知

福岡

 このように、地価が10%以上上昇しているのは、交通網が整備されている大都市およびその周辺の利便性が高い地域であることがわかります。

■その他の地価上昇地域

 地価の上昇が大都市周辺に集中している中で、「北海道虻田郡倶知安町」が地価上昇率のトップ3を占め、上昇率も30%を超えています。

 倶知安町については、ニュースでも取り上げられていましたが、ニセコスキーリゾートの人気により外国人の富裕層が流入していることの影響が大きいようです。このように観光業が好調で人口が流入している地域でも、地価上昇の傾向が見受けられます。

■全国を俯瞰した地価変動傾向

 ここまで地価上昇についてご説明してきましたが、全国的に見た場合、地価はどのように変動しているのでしょうか。

 全国的には、約10,600の地点の地価が上昇しており、地価の変動率の平均は0.7%の上昇となっています。一方、地価が横ばいなのは約5,500地点、下落したのは約9,700地点と、下落した地点の数は上昇した地点を若干下回っています。

 しかし、上昇した地点(青●)が大都市とその周辺に集中しているのに対し、横這い(緑●)と下落(赤●)の地点は全国的に広がっていることが見て取れます。

 地価の上昇は、大都市とその周辺地域に集中し、それ以外の地域では地価は下落傾向にあると言えるでしょう。

■市区町村別の地価傾向

 地点としてみた地価公示データを、市区町村別に計算して地価変動率の平均を算出してみたところ、地価が上昇している市区町村は457市区町村であり、逆に、地価が下落している市区町村は1,000以上に上りました。

 GIS(地図情報システム)を使用してこの状況を可視化すると、地価が上昇している市区町村が大都市周辺に偏り、それ以外の大半の市町村では地価が下落傾向にあることが明確になりました。

 先ほどの地点としてみた場合と同様、首都圏であっても地価が上昇している市区町村は40㎞圏内の市区町村に集中しており、また40㎞圏内であっても下落傾向の市区町村が見受けられます。

 さらに上昇率が5%以上の市区町村に至っては、点で見たときよりも狭く、山手線沿線の区に限られています。

地価の変動率と統計データ

 では、地価が上昇しているような市区町村はどのような地域なのでしょうか?

 地価が上昇している地点は、大都市周辺に集中しており、それ以外の大半の市区町村では地価は下落傾向にあるという状況を踏まえ、地価の上昇率と統計データで見た市区町村の特性を比較してみます。

■市区町村単位の地価と人口統計データとの相関

 地価の変動率と市区町村の特性を比較したところ、次のような項目に相関性が見られました。

① 25-39歳の人口比率

(相関係数:0.724)

②人口に対する転入者の比率

(相関係数:0.673)

③ 民営借家の比率

(相関係数:0.680)

 その一方、次の項目では負の相関性が負の相関性が比較的強く見受けられました。

①65歳以上人口比率(-0.638)

②持家比率(-0.638)

 また、地価の変動率と相関性の高い項目について、それぞれの項目間の相関性を調べてみたところ、それぞれの項目間でも高い相関性が見られました。

 それでは、25-39歳人口比率、転入者の比率、借家世帯比率が高いのは、どのような市区町村なのでしょうか。

 それぞれの比率が高い上位25%の市区町村を抽出したところ、多少の違いはあったものの、ほぼ似たような分布をしており、地価の上昇地点が集中しているエリアとほぼ一致していることがわかります。

25-39歳人口の比率

人口に対する転入者の比率

民営の借家比率

地価の上昇地点

 一方、65歳以上人口の比率、持家比率が高い市区町村の分布を見ると、両方とも地価が上昇した市区町村とは重なっていません。

65歳以上人口の比率

持家比率

地価が上昇した市区町村

 ただし、これらの項目は地価の変動との相関性が見受けられるからと言って、因果関係までが判明したとは言えません。因果関係を探るために、様々な角度から他の要因も交えて調べる必要がありそうです。

■GISを用いたさらなる分析

 今回は、地価の変動と人口統計データとの相関を見るにあたり、単純に市区町村単位のデータを用いたため、距離的な観点は考慮していません。例えば地価公示の調査ポイントと駅や商業施設との距離などは地価に大きな影響を与えるでしょう。GIS(地図情報システム)を使って、地理的な要因も分析項目に加えれば、異なった視点での分析ができるかもしれません。

 また、全ての地価公示データをひとまとめにして人口関連データと比較しましたが、用途地域、建物構造などでデータを細分化してから人口データ/事業所データ/商業データ、建築関連のデータなどと比較するれば、また違った結果が得られるかもしれません。

オープンデータのすゝめ

 今回のマンスリーレポートの目的は、タイトルにも記載したとおり様々なWEBサイトで公表されているオープンデータをエリアマーケティングに活用できることを紹介することです。

 今回、地価の変動との関連性を調べるために、以下のWEBサイトからデータをダウンロードしました。

●国土数値情報ダウンロードサービス

 URL:http://nlftp.mlit.go.jp/ksj/

 今回のレポートで中心的なデータとして扱った「地価公示データ」だけでなく、毎年7月1日時点の地価を調査した「都道府県地価調査」や、全国の「駅別乗降客数データ」等もダウンロードすることができます。

 バス停/学校/医療福祉施設/文化施設/集客施設など、人が集まりそうな場所やランドマークとして使用するのに適したデータも複数公開されています(※注)。

(※注)
 本WEBサイトにある各種データは、商業利用が禁止されているデータも多数あるため、自社内での利用に留めることをお勧めします。当社のGIS(地図情報システム)「MarketAnalyzer™」で利用するためにはデータの変換作業が必要な場合が多いため、利用を希望される場合はご相談ください。

●政府統計の総合窓口:e-Stat

 URL:https://www.e-stat.go.jp/

 今回、公示地価データとの比較に使用した様々な統計データを入手できます。
 例えば以下のような統計データから、市区町村単位のデータをダウンロードできます。

○国勢調査
○住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数調査
○社会・人口統計体系
○医療施設調査
○住宅土地統計調査
○建築着工統計データ
○経済センサス

統計データによっては、今回使用した市区町村別のデータより細かい、小地域統計やメッシュデータもあります。

終わりに

 今回、オープンデータを使用することを本来のテーマとして、地価の変動率と統計データの相関性について解説しました。

 ある程度広い範囲のエリアを分析する場合、市区町村別のデータも十分役に立つため、ここに自社で保有する顧客データや売上データ、取引先データを重ね合わせれば、どのような地域からお客さんが来ているのかなど、マクロな視点で観察することもできるようになるでしょう。

 ビッグデータ時代が到来し、エリアマーケティングに活用するデータの種類も増え、その地域単位も一層詳細になっています。GPSを利用すれば人の滞留の違いを10m間隔で比較することもできるようになりました。だからこそ、マクロな視点に立った広域エリアの分析も重要になってきているのではないでしょうか。

 マクロな視点での分析であれば、メッシュや町丁目等の小地域統計よりも、市区町村単位のデータの方が扱いやすいです。市区町村別のデータはオープンデータとして公表されていることが多いため、利用してみてはいかがでしょうか。

 本レポートで紹介した各種分析は当社商圏分析GIS「MarketAnalyzer™」を利用しました。


監修者プロフィール

市川 史祥
技研商事インターナショナル株式会社
執行役員 マーケティング部 部長 シニアコンサルタント
医療経営士/介護福祉経営士
流通経済大学客員講師/共栄大学客員講師
一般社団法人LBMA Japan 理事

1972年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。不動産業、出版社を経て2002年より技研商事インターナショナルに所属。 小売・飲食・メーカー・サービス業などのクライアントへGIS(地図情報システム)の運用支援・エリアマーケティング支援を行っている。わかりやすいセミナーが定評。年間講演実績90回以上。


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