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エリアマーケティングラボ
異業種ミックス戦略が客数増の原動力になっている島忠。店舗改装前後で商圏に与えるインパクトを検証した。
(流通情報誌「激流」2019年5月号掲載)
2019年6月4日号(Vol.93)
不調が続くホームセンター業界において、客数を伸ばし続けている企業がある。首都圏を中心に「島忠」「ホームズ」を約60店展開する島忠だ。2017年11月以降、今年2月までで16カ月連続の客数増を達成。ここまでの記録は、同業はもとより他業態を含めても数少ない。
客数増の原動力となっているのが異業種ミックス戦略だ。自営売り場を縮小し、テナントを導入する改装を積極的に推進することで集客力を高めている。キーテナントの1つが100円均一のダイソー、そしてもう1つのカギとなっているのが食品スーパーだ。価格訴求力の高いオーケーやロピアをはじめ、首都圏ローカルで支持を集める三和、食品館あおばといった強力なディスカウントスーパーを誘致。日常使いの店となることで客数を着実に積み上げているのだ。
そこで今回は島忠のスーパー導入店を取り上げ、近隣の競合と比較する形で分析を行ってみる。改装前後のお客の増減、また商圏のパワーバランスに与えるインパクトについて検証したい。
分析にあたり、直近の改装でスーパーを導入した2店をピックアップした。なおデータ提供はエリア戦略の支援を行う技研商事インターナショナルに依頼した。
①ホームズ三郷中央店(埼玉県三郷市)
こまず取り上げるのは、昨年12月5日に改装オープンし、オーケーを導入したホームズ三郷中央店だ。つくばエクスプレスの三郷中央駅から徒歩3分の駅前立地。周辺2キロ圏には3万8239人、1万5370世帯が住む。年齢別では30、40代が構成比の3割以上を占め、10歳未満の人口も県平均を大きく上回る。ニューファミリー層が多く暮らすベッドタウン性の高いエリアだ。
比較対象の競合店として、300メートル離れたマルエツ三郷中央店を選定し、両者の位置関係を図表1に示した。
マルエツ三鷹中央店は、駅の目の前にある利便性もさることながら、敷地内にベビー用品の西松屋、外食のサイゼリヤなどを備えるNSC型の店舗だ。複合的な機能でお客を呼び込む戦略は島忠と同様。果たしてお客の動向はどう変化したか。
スマートフォンのGPS位置情報を基にして、直近4カ月の来訪者の推移をまとめたのが図表2になる。
これを見ると、島忠の改装効果は如実に表れている。グラフの縦軸は2店の来訪者の合計を100とした時の構成比だが、改装前はマルエツが圧倒していた。しかし改装オープンを境に島忠の客数が大きく伸長、これまでの差が一気に埋まった。オープンから約3カ月経過した時点でも、両者はほぼ互角の戦いを繰り広げている。
曜日別、時間帯別に抽出したデータを使い、もう少し掘り下げてみよう。
図表3の曜日別データを見ると、平日型のマルエツに対し、島忠は週末に多くお客を集めているのがわかる。同じお客の使い分けもあるかもしれないが、土日は両者の客数の合計自体が増えているので、島忠がより広域からお客を呼び込んでいると考えられる。
図表4の時間帯別のデータにも特徴が出ている。やはり駅前のマルエツが得意なのは朝と夕方のラッシュ時。一方、島忠は昼過ぎをピークとした1つの大きな山を作っている。電車の乗降客や時間が限られたお客は変わらずマルエツを使っているようだが、それ以外ではリニューアルを機に島忠に流れたお客も少なくなさそうだ。
②ホームズ平井店(東京都江戸川区)
次に取り上げるのは、今年2月9日にロピアを導入したホームズ平井店だ。総武線の平井駅から徒歩10分、東武亀戸線の東あずま駅から12分の住宅街に立地。周辺2キロ圏には23万1844人、11万4285世帯が住む。こちらも30、40代が多く暮らすが、60、70代のシニア層も同様に多い。高齢単身世帯の割合も高いエリアとなっている。
比較対象には平井駅前の西友平井店、東あずま駅前のダイエー立花団地店を選定した。
近隣はスーパー空白地帯。島忠がスーパーを導入する前は、駅前まで出て行かないと食品を一通り揃えられる店がない状況だった。島忠のリニューアルによって商圏のパワーバランスはどう変わったか。
三郷中央店と同じ期間の来訪者推移をまとめたのが図表6だ。
これを見ると、元々島忠は駅前の西友と競るくらいにはお客を取り込んでいたことがわかる。こうした勢力図が改装オープンを境に一変した。開店1カ月の出足の状況ではあるが、現状は島忠の独り勝ち。西友はこれまでのお客を一気に奪われ、元々出遅れていたダイエーはもう一段客足を落としている。
三郷の例と同様に曜日別、時間帯別のデータも見てみよう。
図表7を見ると、島忠がやはり週末に強いことがうかがえる。加えて同エリアでは平日の集客においても島忠が競合2店を上回っている。図表8の時間帯別データでも島忠が圧倒。西友は24時間営業店舗のため、早朝と深夜に多少のアドバンテージがあるが、それだけで集客力の差を埋めることは叶わない。同エリアの事例は、島忠が地域特性に合わせた異業種ミックスを行うことによって、商圏のお客を根こそぎ囲い込むことに成功したケースと言えそうだ。
3月下旬の平日夕方、実際にホームズ平井店を訪れてみると、来店客の勢いはまだまだ健在だった。やはり集客装置となっているのはロピアで、生鮮が並ぶ外回りの通路には主婦やシニア層のお客が多く行き交う。中でも惣菜コーナーは人だかりができるほどの盛況ぶりだった。島忠の売り場にもロピアの袋を持ったお客が流れてきており、相乗効果が生まれているようだ。近隣住民に話を聞くと、「土日は店前の通りが渋滞になる」ほどの客入りだそうで、やはり強いテナントの導入は商圏のお客の流れを一変させる影響力をもたらすと言える。今後も1つの差別化策として広がりを見せそうだ。
差別化という意味では、島忠はより幅広い業種との連携も図っている。昨年12月には、ホームズ新山下店の2階を改装し、ツタヤのブック&カフェ業態を導入。また今年3月には、フィットネスジムやタニタのレストランを併設したホームズさいたま中央店をオープンした。組み合わせ次第では、これまでになかったシナジーが生まれる可能性もあり得る。
一方で忘れてはならないのが、自前の売り場の魅力向上だ。現在、島忠は商品をカテゴリーごとに整然と並べる手法から、雑貨と家具をテーマごとに組み合わせた提案型に変えるなどの改革も行っている。変わりゆくお客のニーズを捉え、館全体の魅力を高める島忠の挑戦が始まっている。
国際商業出版株式会社
「激流」編集部 中村 秋紀
2016年入社。スーパー、コンビニ、ドラッグストアなど小売業全般を対象とする月刊誌「激流」の編集部に所属。同誌にて、話題店舗のその後や競合ひしめく激戦地の状況などをデータから分析する「商圏を読み解く」を連載中。
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