エリアマーケティングラボ

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~業界の最新動向~

GISの活用法と商圏分析の具体事例

はじめに

当社で定期的に行っているエリアマーケティングセミナーでも好評な“商圏分析の基礎”紹介。
ビギナーの方だけでなくベテラン層の方にも「振り返りに役立った」等のお声をいただきます。出店戦略、販促戦略、エリア戦略等の見直しを行う際などは、基本に立ちかえることも大事にされる方も多いのでしょう。この記事では、今一度GIS(地図情報システム)とは何か、そして活用の意義について事例を交えご紹介します。店舗開発や販促をご担当の皆様、ぜひご一読ください。



1.商圏分析に欠かせないGISとは?

GISはGeographic Information Systemの略で、日本語では地図情報システムや地理情報システムと言います。地図や各種データが階層構造として搭載されており、それらデータを空間的に処理する仕組み(GISエンジン)を含めた総称です。コンシューマー向けのGISではカーナビゲーションが馴染み深いでしょう。官公庁でも都市計画や防災、行政サービス、情報公開等で地図を使ったシステムを活用しています。当社のGISは民間企業の商圏分析・エリアマーケティング向けですが、活用用途は様々あります。

2.商圏分析GISの歴史 

民間企業の商圏分析・エリアマーケティングと言えば、国内で最初にGISを本格的にビジネス活用したのは日本マクドナルドで、約20年前からと言われています。当時は国内にまだGISが普及しておらず、先行している海外のGISを参考に自社開発されたそうです。大量出店時代の到来と共に、手作業や勘だけの商圏調査は終わり、データに基づく意思決定に移行しはじめた時期といえるでしょう。  当社もほぼ同じ時期にパッケージ化した商圏分析用GIS(当時はターゲティングマシンという製品でした)をリリースしました。今では導入実績社数が2,000社を超えています。

 経験と勘だけで意思決定するのならばGISは不要です。経理財務システムや顧客システムのように、それがなければビジネスが成立しないものでもないかも知れません。しかしながら、小規模ビジネスであれば属人的な経験と勘でも十分ビジネスは進化しますが、組織が大きくなるとデータという共通言語がない限りスムーズな意思決定は困難です。時代の流れからも、ますますエビデンスベースドな経営が求められており、今後一層GISの価値・意義は向上していくと思われます。

3.商圏分析GISの構造、搭載するデータベースの種類

GISの構造の概略図は〈図1〉をご参照ください。簡単に言えば、地図とデータが搭載されている仕組みといえますが、地図とデータそれぞれに大きな意義があります。

GISの構造
【図1:GISの構造】

【地図に可視化する意義】

地図は単に眺めるためのものではありません。勿論データや分析結果の「可視化」という意味で地図は重要な要素ですが、GISの地図はデータ同士を空間的に処理するための素材という意味でも重要です。
例えば顧客と店舗との距離、自動車◯◯分圏という商圏範囲、営業テリトリーの重複や空白地帯など、空間解析をすることにより初めてわかることがあります。

【5つのデータカテゴリ】

GISで利用するデータは項目数で言うと数千種類あり、大きく3つのカテゴリに分類できます。当社ではそれぞれを統計データポイントデータ統計の組み合わせによる推計データ自社データ、3rd partyデータ(オルタナティブデータ)と呼んでいます。

*統計データ

国勢調査や住民基本台帳、経済センサスなど、国や自治体がソースの公的なデータを指すのが一般的ですが、それらを組み合わせて推計したデータなどもエリアマーケティングでは活用されています。個人情報や特定の店舗などを示すものではなく、メッシュや町丁目、郵便番号界、市区町村など、エリア単位で集計・秘匿化されたデータです。点ではなく面のデータとも言えるでしょう。

*ポイントデータ

地図上に点でマッピングするようなデータのこと。自社店舗、顧客、競合店舗などが該当します。自社店舗と顧客については自社データの欄で後述します。競合データは単に競合の存在を把握するだけではなく、自社のマーケットサイズを測定する際に重要な要素です。例えば2つの商圏があり、商圏人口が同じ5万人規模だとします。この段階で人口が同じだからマーケットサイズも同じだと判断するのは早計です。片方の商圏は競合が5店舗あり、もう片方は競合が1店舗という状態だったら、商圏内の5万人は当然競合店舗にも流れるため、マーケットサイズが大きく異なってしまいます。これについてはハフモデル分析(https://www.giken.co.jp/glossary/huff_model/)という手法が有効で、商圏人口に対して競合の影響を加味して吸引人口を知る際に活用されています。

*推計データ

統計データ同士を組み合わせたり、過去の傾向から将来の動向を分析したりし、将来にわたる推計値を算出したデータを指します。当社のGIS(地図情報システム)MarketAnalyzer™では、昼間人口将来人口年収階級別世帯数消費支出などを搭載しています。

*自社データ

ユーザー企業が保有する自社店舗のデータや顧客データ、つまり実績を表すデータです。地図上にマッピングして分布を見るのは勿論のこと、面の単位で集計して統計データと重ねあわせて分析します。統計データと重ねあわせるとポテンシャルに対する実績(=シェア)を把握することができます。

*3rd partyデータ(オルタナティブデータ)

自社やパートナー企業以外の第三者(3rd party)が提供するデータを表す言葉。当社では、主に行政が提供する国勢調査等の公的データは統計データ、民間企業の提供するクローズドなデータを3rd partyデータと定義しています。GPS等の位置情報ID‐PosデータSNS等のライフスタイルを軸とした情報など、自社データではカバーしていない切り口を補完でき、より具体的な潜在顧客の分析や競合分析なども可能となります。

4.商圏分析GISでできること(活用用途と価値)

【6つの主な活用用途】

エリアマーケティング分野におけるGISの主な活用用途として、店舗開発既存店分析顧客分析販売促進リテールサポート開業支援などが挙げられます。

(1)店舗開発

新たに出店する候補物件に対し、立地・商圏のマーケットサイズの測定などを行います。バブルの時期は物件の取り合いで、いかに素早く出店するかが重視された面もありました。出せば売れたわけです。しかし現在ではどの企業も出店に関しては慎重になっており、緻密な商圏調査が重要視されます。GISを活用した商圏分析は約20年前からと述べましたが、最初の活用例は小売チェーンや飲食チェーンによる新規出店時の商圏調査でした。現在は分析レベルも高度化し、売上予測モデルを構築したりハフモデル分析によって競合の影響を加味したりと統計解析を駆使しているユーザーもいます。

(2)既存店分析

新規出店の場合、顧客や売上データ等がまだなく判断基準が薄くなりがち。GISを用いれば「店舗から自動車10分圏で人口が3万人」などの条件で瞬時に商圏を割り出すことはできますが、それだけではそれが多いのか少ないのかがわかりません。そこで既存店と比較分析する必要があるわけです。売上上位店舗の商圏人口と比べて多いか少ないか、いわゆる「しきい値」を定義する分析は基本です。また商圏の構造自体が時代とともに変化するため、現状と将来像を鑑みた業態の転換や再配置などのテーマでも活用されています。

(3)顧客分析

チェーン店舗においては商圏の定義を顧客分布から行うケースも多く見られます。顧客の来店マップが実態の商圏となります。最近では、チェーン企業だけではなく通信販売の企業が自社顧客をプロファイリングする目的で活用するようにもなりました。商品の発送先住所を基に、細かい属性を統計データから類推する手法です。この手法はアドテクノロジーの分野でも応用され始めています。ネットの閲覧履歴に応じて最適な広告を配信するという従来のテクノロジーに加えて、ネットのオーディエンスデータやスマートフォンアプリからの位置情報を地域ごとの統計データを用いてより詳細にセグメントするなどの活用方法があります。

(4)販売促進

新規出店ではなく、既存店をいかに活性化させるかをテーマとする企業も少なくありません。具体的には、エリアに紐づく広告媒体の販促エリアを最適化する場合です。顧客分析と連動しますが、顧客分布という実績に対して人口や世帯数などの統計データ、つまりポテンシャルを重ねあわせて地域シェアを把握します。町丁目や郵便番号界単位の小地域ごとのシェアに応じて販促エリアに優先順位を付けて、販促ROI(費用対効果)を最大化しています。

(5)リテールサポート

文字通りリテール(小売)に対してサポート(支援)する分野。GISを利用するのは食品や飲料、化粧品などの消費財メーカーや卸です。自社の商品を小売店舗で販売してもらう際に、商圏特性というエビデンス・根拠に基づく提案を行っています。クライアントへの提案時に利用するという意味ではコンサルティングや広告代理店の業務もこのような用途ですし、次の開業支援の場合も同様です。

(6)開業支援

診療所や介護施設、飲食店や美容室関連でこのキーワードがよく出てきます。費用対効果やナレッジの問題から、それぞれの経営者が自前でGIS分析することはあまりありません。彼らとビジネスをしている企業がGISを営業ツールとして活用しています。診療所の開業支援の場合なら、開業候補地の診療圏に対する推計患者数を自動的に算出するなどの機能も充実しています。

【商圏分析GISがもたらす価値】

細かな商圏のシュミレーションが手軽にできる

GISの利用有無に関係なく、自社の商圏範囲の把握は必須です。紙の地図を広げて手書きで半径◯◯km圏や行政界単位(◯◯市など)を描くことはできますが、消費者は半径◯◯kmや◯◯市という単位で移動・行動するわけではありません。実際には徒歩・自転車・自動車・電車などを利用して来店します。来店手段に応じた商圏範囲の作成は手作業では困難。そこで様々な手段に応じた商圏範囲をスピーディかつ的確に描けるGISの商圏作成機能が必要となります。

地図上でデータを可視化することで得られる気づきがある

例えば顧客データ。普段、現場レベルではExcelなどの表形式で見ることが多いかと思います。しかしExcelをいくら眺めても店舗の実商圏はわかりません。これを地図上にマッピングするとその分布は一目瞭然です。河川を超えてまで来店しない、大きな幹線道路で商圏が分断されているなどの気づきは、地図を用いて初めて理解することができます。また、大抵のGISには分析結果をグラフ形式で自動的に出力するレポート機能を搭載できるため、商圏やエリアの傾向が一目でわかることもメリットです。

エリア単位で市場を知ることで、的確な判断につながる

GISで利用するデータベースで、過去から現在まで最もポピュラーなのは国勢調査です。現在(2019年時点)の日本の人口は約1億2600万人で、国内ビジネスではこれが多くの企業のターゲットの最大値と言えるでしょう。自社で保有している顧客データや購買データはその内の一部にすぎません。そしてそもそものマーケットボリュームを商圏単位、地域単位で知らないと市場を理解することにはなりません。図2をご覧ください。

実績と市場の比較
【図2:実績と市場の比較】

地域Aには顧客が100人、地域Bには顧客が50人。このまま比較すれば地域Bの顧客が少ないため、獲得を狙い地域Bを重点地域と定義してしまいがちです。そこでGISを用いて市場という要素を追加し、地域Aは人口が1,000人、地域Bは200人というデータを確認できたとします。あと何人顧客になり得る人がいるのかという観点で計算すると、地域Aは900人、地域Bは150人となり、余地が潤沢な地域Aに注力しようという、全く逆の判断が可能です。どちらが正しいかは課題やテーマにもよりますが、市場を表すデータと重ねあわせて分析しなければ、判断を誤る可能性があるということです。

分析ナレッジを全社共有のものにし、属人化を防げる

分析の目的が、出店や販促の意思決定を正しく行い、地域戦略を立てることだとします。経験豊かなベテランはGISに頼らずとも結果的に正しい判断ができるかも知れません。しかしベテランという限られた人の属人的な判断だけで経営の舵取りをすることには、リスクが伴います。GISでの分析は基本的には誰が行っても同じ結果となり、その出力結果はドキュメントとして共有することができます。つまりベテランの知見を全社に共有しやすくなるということです。

5.GISで成果を上げた4つの事例

GISは、単に導入すれば自社の課題が解決されるというものではありません。適切に運用し、GIS本来の価値を十分活用することが重要です。当社は20年以上に渡って2,000社以上にエリアマーケティング用GIS「MarketAnalyzer™」の提供・運用支援を実施してきた経験をもとに、分析手法や事例を紹介する無料セミナーを毎月開催しています。次はセミナーでもあまり紹介していない事例を簡単にご紹介します。

事例1:経営の重大決定のエビデンスに

某飲食チェーン様の例。新規出店候補地として複数地点を検討し最終的に2つに絞られたが、経験と勘だけではどうしても絞り込めなかった。そんな中、GIS分析を実施し客観的なデータを創出したことで最終判断の後押しとなった。

事例2:人材リソースの有効活用

某コンサル会社様の例。業務上必須となる商圏調査とそのレポート作成を、従来は営業員が手作業で行っており、人によって調査の内容と質が異なるうえ、作成に数時間~数日を要していた。GIS導入により、作業時間が数10分の1~数100分の1になり、本来の業務に人員を投下できるようになった。

事例3:販促のROIが劇的に向上

某小売チェーン様は毎月、各店舗への集客を目的として折込チラシを配布している。配布エリアは各店長が判断し、それ以上精査していなかった。GISの導入により、顧客データと統計データを用いて販促重点エリアの把握が可能となり、「来店ポテンシャルの高いこのエリアのみ配布する」というように全店舗の配布エリアを細かく定義し直した。結果的にチラシの予算が20%削減できた上、来店数は3%増え、販促ROI(費用対効果)は劇的に向上した。

事例4:属人的営業から提案営業へ

ターゲットが飲食チェーンの企業様。営業スタイルは既存取引先企業へルート営業を重ね、担当者と仲良くなって受注をもらうというもの。年々競合との価格競争も激しくなり、売上や商談数が下落傾向だった。そこで新規顧客の開拓が課題となったが、これまでの営業スタイルでは全く通じない。GISを導入し、訪問する店舗の商圏調査レポートを作成し持参したところ、店長が気になる情報を提供できることになり、商談率が向上。段階を追って色々なデータを提示し、商談回数およびクライアントとの接触機会を増やしていった。自社商品を提案する際にも、店舗周辺の商圏特性を提示することで説得力のある提案が可能となった。

事例5:店長の目つきが変わった

住宅メーカー様の例。GISの主な利用目的は建築主への提案営業。特に問題なく運用していたが、一方で各店長が一同に介する月例会議で、店長がネガティブな言い訳ばかりするという悩みがあった。そこで会議の配布資料である店舗別売上予実表に、店舗をプロットした地図を加え、実績に応じてプロットしたアイコンの大きさを変えてみた。今までは自分の店舗の予実を見る程度だったが、地理的に近い他店の予実を意識し自分の店舗のアイコンの大きさを気にするようになった。

実績と連動した店舗情報の可視化方法

6.まとめ

GISを運用して成果を収めるにはGISという道具の良し悪しだけではなく、何に利用するのかという目的や課題設定と、それを支えるパートナーが重要です。導入を検討したい、既存のGISを見直したいという課題をお持ちであれば是非当社にお声がけください。お客様の状況に合った最適な運用形態をご提案します。

 最後に、最近店舗開発のために新規に当社GISを導入いただいた企業の社長様の言葉で終わりたいと思います。

 「GISを導入したって出店に失敗することもあるだろう。しかしながら、きちんと分析してデータに基づく判断をした上での失敗と、そうでない場合の失敗とでは、そこから受けるダメージが全然違うだろう。」


監修者プロフィール

市川 史祥
技研商事インターナショナル株式会社
執行役員 マーケティング部 部長 シニアコンサルタント
医療経営士/介護福祉経営士
流通経済大学客員講師/共栄大学客員講師
一般社団法人LBMA Japan 理事

1972年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。不動産業、出版社を経て2002年より技研商事インターナショナルに所属。 小売・飲食・メーカー・サービス業などのクライアントへGIS(地図情報システム)の運用支援・エリアマーケティング支援を行っている。わかりやすいセミナーが定評。年間講演実績90回以上。


▶搭載可能なデータベース一覧
 https://www.giken.co.jp/datalineup/

▶【関連コラム】GIS商圏分析の現状と課題、あるべき姿(具体例から紐解く)
 https://www.giken.co.jp/column/monthly2018_2/

▶【店舗や販促分析に役立つコラム】エリアマーケティングLAB
 https://www.giken.co.jp/column/

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