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エリアマーケティングラボ
2025年4月9日号(Vol.140)
業界の全体像や企業間の関係性を視覚的に整理できるツールとして、「カオスマップ(Chaos Map)」への関心が高まっています。本記事では、カオスマップの基本的な概要から、種類、作成手順、活用法までを初めての方にもわかりやすく解説します。マーケティングや事業戦略に役立つ活用方法も紹介します。
カオスマップとは、特定の業界やテーマに関わる企業・サービスをカテゴリ別に分類し、視覚的に整理した図表のことです。複雑で入り組んだ業界構造を「カオス(混沌)」と捉え、整理・可視化することからこの名称が付けられました。
もともとは米国のテクノロジー業界で広まりましたが、現在では日本でも幅広い分野で活用され、業界の勢力図や動向を把握するための資料として注目されています。
カオスマップはさまざまな分野で作成されています。以下はその一例です
◆ テクノロジー系
生成AIカオスマップ(生成モデル、画像生成、音声、チャットボットなど)
SaaSカオスマップ(国内外のSaaS企業を用途別に分類)
ブロックチェーンカオスマップ(パブリックチェーン、DApps、取引所など)
◆ 業界特化型
HRテックカオスマップ(採用、勤怠、教育、評価など)
フィンテックカオスマップ(決済、資産運用、融資、保険などに分類)
飲食DXカオスマップ(モバイルオーダー、予約、POSなど)
医療ヘルスケアカオスマップ(オンライン診療、PHR、介護テックなど)
◆ その他テーマ
マーケティングツールマップ
EC支援サービスマップ
地方創生・地域活性系スタートアップマップ
カオスマップ作成の一般的な手順は以下です。
これらのステップを踏むことで、効果的なカオスマップを作成できます。各ステップの詳細は、以下で詳しく解説していきます。
カオスマップ作成において、まず最も重要なのは目的と対象範囲を明確にすることです。
カオスマップは、情報を整理し可視化するためのツールですが、目的が曖昧だと効果を発揮できません。
<目的を明確にする要素>
• 業界全体の把握
• 特定分野の分析
• 競合状況の理解
• 自社の立ち位置明確化
• 新規参入機会探索
これらの要素を考慮し、カオスマップを作成する目的を具体的に定める必要があります。目的が定まれば、対象範囲も自ずと明確になります。対象範囲を絞り込むことで、情報の過不足を防ぎ、より実用的なカオスマップを作成できます。目的と対象範囲を明確にすることで、効果的なカオスマップ作成へと繋がります。
データ収集は、カオスマップ作成において成否を分ける重要なプロセスです。
なぜなら、正確なデータに基づいていないカオスマップは、誤った認識や判断を招き、結果として戦略の失敗につながる可能性があるからです。
<データ収集時の注意点>
• 情報源の信頼性を確認
• 最新情報の収集
• 多角的な視点の収集
これらの注意点を守り、偏りのない客観的なデータ収集を心がけることで、カオスマップの精度を高めることができます。精度の高いカオスマップは、市場の全体像を把握し、自社の立ち位置を明確にする上で不可欠なツールとなります。
カオスマップの精度を左右する重要な工程は軸の設定(カテゴリ分け)です。
以下のような分類軸がよく使われます。
<軸の種類>
• 機能・用途ベース:営業支援/人事・労務/マーケティング/会計/セキュリティなど
• ターゲットベース:小売業向け/製造業向け/飲食業向けなど、業種別の分類
• 技術・アーキテクチャベース:AI、IoT、クラウド、オンプレミスなど
• フェーズベース:顧客獲得/商談管理/アフターサポートなど、業務プロセスの流れに沿った分類
これらの軸を組み合わせることで、より詳細な分析が可能になります。 例えば、顧客獲得を軸に「課題解決型」「効率化型」「創造支援型」といった分類を設けることで、各社のポジショニングを明確にできます。
軸の設定は、カオスマップの目的や対象範囲に応じて柔軟に調整する必要があります。 様々な視点から検討し、最適な軸を見つけ出すことが、効果的なカオスマップ作成の鍵となります。
データ整理とフォーマット設定は、カオスマップ作成において非常に重要な段階です。
なぜなら、収集したデータが整理されていなければ、マップの作成が困難になり、誤った情報を伝えてしまう可能性があるからです。
<データ整理のポイント>
• 重複データの削除
• データの分類・整理
• フォーマット統一
• データの正規化
• 不足情報の補完
これらの作業を通じて、データを整理し、フォーマットを統一することで、カオスマップ作成の効率と精度が向上します。最終的に、見やすく、理解しやすいカオスマップを作成することができるでしょう。
単に企業名やロゴを一覧表示するだけでなく、サービス間の関係性や業界構造を示す工夫を加えると、より価値のあるカオスマップになります。
<表現の工夫例>
• 矢印:データ連携の流れやAPI連携を可視化
• 階層構造:基盤技術 → サービス層 → アプリ層など
• 色分けやアイコン:BtoB、BtoC、大企業、スタートアップなど
• 時系列配置:業界の成長段階や普及フェーズを表現
こうした構造的な視点を取り入れることで、戦略的な気づきを得やすくなります。
カオスマップだけで誰もが業界構造を理解できればよいですが、作成者・専門家として解説文やコメントを入れると親切ですし、より見た人の理解が深まります。
カオスマップの好事例として、当社も加盟している位置情報系の業界団体「一般社団法人LBMA Japan」が毎年発表しているカオスマップをご紹介します。
「地図」を扱うGIS業界において、カオスマップという“業界の地図”は、象徴的な存在とも言えるでしょう。
GIS(地理情報システム)分野におけるカオスマップが作られるようになったのは、他の業界よりもやや遅れて、2020年前後から徐々に増え始めました。まだ網羅的な「GISカオスマップ」は多くありませんが、今後の成長領域として期待されています。
背景には以下のような要因があります:
GIS業界は複雑で多層的な構造を持つからこそ、その構造を俯瞰できるカオスマップの価値が非常に高い業界です。今後は、AI・IoT・人流データなどとの融合が進むことで、GIS業界のカオスマップはより進化し、「戦略的ツール」としての位置づけを強めていくでしょう。
カオスマップは、単なる資料ではなく、次のような戦略立案や意思決定にも活用できます。
◆ カオスマップで得られる洞察
業界の全体像と勢力図
参入余地やホワイトスペースの発見
自社と競合、提携候補の把握
業界のトレンドや新興プレイヤーの把握
市場の成熟度・過密度の確認(カテゴリごとのロゴの密度から)
◆ 具体的な活用シーン
新規事業のリサーチ資料として
展示会やセミナーでの資料配布
社内のナレッジ共有や勉強会
自社メディアでのコンテンツ施策(SEO対策にも)
カオスマップは業界構造やプレイヤー間の関係性を視覚的に整理するツールであり、多様な分野で活用されています。作成には目的設定からデータ収集、軸設定など段階的なプロセスが必要です。また、マーケティング戦略や競合分析、新規事業開発など幅広い場面で役立ちます。特にGIS業界では複雑な構造を可視化するため重要性が高まっています。
監修者プロフィール市川 史祥技研商事インターナショナル株式会社 執行役員 マーケティング部 部長 シニアコンサルタント |
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医療経営士/介護福祉経営士 流通経済大学客員講師/共栄大学客員講師 一般社団法人LBMA Japan 理事 1972年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。不動産業、出版社を経て2002年より技研商事インターナショナルに所属。 小売・飲食・メーカー・サービス業などのクライアントへGIS(地図情報システム)の運用支援・エリアマーケティング支援を行っている。わかりやすいセミナーが定評。年間講演実績90回以上。 |
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