人流データとは?その種類や業界別活用事例、海外事例など|オープンデータも紹介
はじめに
人流データは、人々がどのように移動しているかを把握できるデータです。ビジネス活用では、顧客行動の理解、マーケティング施策の立案、競合調査、店舗立地分析など様々な場面で役立てることができます。
人流データの解析には、分析手法や留意点など、一定の知識が必要です。しかし、正しく活用すれば、ビジネスの精度を大幅に向上させる強力な武器となるでしょう。
今回のコラムでは、位置情報を基にした人流データの活用について、データの種類や取得方法、業界別の利用例や実際の具体事例、海外の動き、無料で使えるオープンデータなどを紹介します。
※本コラムは、2024年12月に一部内容を更新いたしました。
人流データとは
スマートフォンのGPS位置情報やWi-Fi、ビーコン等を通じて収集・分析された人の動きや流れを示すデータです。人流データを活用することで、人が移動する時間や場所、人の流れのボリューム、各エリアや施設・店舗内での人の動きや滞在時間等を把握できるようになります。
人流データの種類(取得方法別)
人流データの取得方法は、大きく分けて携帯電話基地局、GPS、Wi-Fi、ビーコン、カメラの5種類に分類されます。
■ 携帯電話基地局
携帯電話が基地局と通信する際に発生する位置情報を取得する方法です。エリアごとの人の移動状況を把握するのに適しています。
■ GPS
GPSを搭載したスマートフォンやウェアラブルデバイスの位置情報を取得する方法です。個人単位の移動経路を把握するのに適しています。
■ Wi-Fi
Wi-Fiアクセスポイントに接続したデバイスの位置情報を取得する方法です。屋内や商業施設などでの人の移動状況を把握するのに適しています。
■ ビーコン
Bluetooth Low Energy (BLE) を用いたビーコンを設置し、デバイスがビーコンと通信する際に発生する情報を取得する方法です。特定のエリアにおける人の滞在時間や行動を把握するのに適しています。
■ カメラ
防犯カメラや監視カメラの映像から人の動きを分析する方法です。人の行動や属性を把握するのに適していますが、プライバシーへの配慮が必要です。
これらの方法にはそれぞれメリットとデメリットがあり、取得するデータの目的や用途によって最適な方法が異なります。次の章で紹介します。
種類別でみる人流データ活用のメリット・デメリット
■ 携帯電話基地局データ
携帯電話基地局は、携帯電話の電波を中継する基地局のことです。携帯電話基地局は、携帯電話の位置情報を取得することができます。このため、携帯電話基地局を利用して人流データを収集することができます。
携帯電話基地局を利用したデータ取得方法のメリットは、広範囲にわたってデータを取得できることです。しかし、個人を特定する情報が取得される可能性があるため、プライバシー保護の観点から注意が必要です。
■ GPSデータ
GPSを利用したデータ取得方法のメリットは、高い精度で位置情報を取得できることです。しかし、GPSは電波が届かない場所ではデータを取得できません。
■ Wi-Fiデータ
Wi-Fiを使用したデータ取得方法のメリットは、個人を特定する情報が取得できないため、プライバシー保護の観点から優れている点です。また、携帯電話基地局やGPSに比べて低コストで導入できることも強みです。
一方で、Wi-Fiが受信できないエリアではデータを取得できないことや、MACアドレスの重複による誤差が発生する可能性がある点がデメリットです。
■ ビーコンデータ
ビーコンを利用したデータ取得方法のメリットは、高い精度で位置情報を取得できることです。一方で、ビーコンを設置する必要があるため、初期費用がかかることがデメリットです。
■ カメラを使用したデータ
カメラを使用したデータ取得方法のメリットは、映像から詳細な情報を取得できることです。デメリットとしては、個人情報保護の観点から注意が必要なことが挙げられます。
人流データが注目される理由
■ 精度の高い位置情報データを取得しやすくなった
スマートフォン等の携帯端末やWebアプリケーション、屋内の人流計測ができるAIカメラやビーコン等の普及により、精度の高い位置情報が容易に取得できるようになりました。
■ AIの発達で膨大なデータを分析しやすくなった
AIが登場する前は、ビッグデータの解析は専門知識を有するスタッフを要したり、分析するためのデータの下処理に途方もない時間がかかったりと、活用に至るまで多くの労力がかかっていました。昨今のAIの発達により、日々、膨大に蓄積していく位置情報データを誰でも使える簡単なツールで容易に解析できるようなサービスも増えてきました。
■ コロナ禍以降、人流データの認知が高まり、活用事例も増えてきた
2020年にコロナ禍で混雑・密回避の必要性が高まり、連日ニュース等で主要エリアの人出情報が流れていたこともあり、“人流データ”の認知度は一気に高まり生活に身近なものとなりました。こうした認知度や需要の高まりを受け、人流データを活用する企業や官公庁・自治体が増えていくにつれ、活用事例も増えていき、注目を集めることとなりました。
人流データでどんなことが分かるか
位置情報等のデータを用いると常に最新の人流を把握できるため、人口動態の把握に最適といわれています。こうしたタイムリーな人流の把握は、民間のエリアマーケティングや官公庁・自治体の都市計画、観光分析、防災計画等において、機動的な戦略立案のためのエビデンスとして活用されています。
■ 来訪者の推移が分かる
特定の施設やエリアに来訪する人のボリュームを時系列で把握できます。
従来の人力による出口調査等と比べて、リソースを割かずに机上でデータを定点観測すれば、簡単に人流の推移を把握できるようになります。
とある3施設の来訪者推移の時系列比較
■ どんな人が来ているかが分かる
スマートフォンの位置情報等を活用した人流データの場合、端末の契約者情報等から性別や年代等の属性を紐づいていることがあるため、来訪者の属性を分析することも可能です。
また、滞在している時間や長さにより、来街者なのか勤務者なのか居住者なのか等の推測も可能です。
店舗別年齢別来訪者数
■ どこから、どれくらいの人が把握できる
例えば、夜間に滞在している位置情報から推定の居住地を把握できるため、どこから来訪しているかといった分析も可能となります。
また、位置情報データの移動速度等を加味し、徒歩なのか自動車なのか等の移動手段も提供サービスによっては分析可能な場合があります。
複数店舗間の来訪者居住地分布地図
■ 施設や店舗、観光スポット等の併用状況や回遊状況が分かる
GPSデータ等の位置情報の活用で、例えば観光地にいくつかある観光スポットをどのように回遊・併用しているのか、混雑しているエリアはどこか等を把握することができます。GPSデータ等は館内のフロア毎の人流把握等は難しいとされていますが、ビーコンやカメラ等を活用すると、施設内や店舗内等の屋内の人流を細かく把握することも可能です。
指定した複数店舗間の来訪者居住地分析イメージ
人流データ取得時の注意点
人流データは取得時と分析時に以下の項目に注意する必要があります。
・プライバシー保護、個人情報漏洩対策
人流データには個人を特定する可能性のある関連データが複数紐づいている場合が多く、その取扱いには注意が必要です。データを取得する際に用途を含めた許諾が取られていることは大前提ですし、もし様々な関連情報が紐づいているローデータを社内で管理する場合は適切な漏洩対策が取られていることが必須となります。
・データソースの把握や、信頼性の高いデータの活用
皆様の会社で直接人流データを取得するケースはレアかと思います。概ねデータホルダー企業や位置情報分析ツールを提供している企業で許諾や漏洩管理等がなされていると思います。
データやシステムを選択する際は、許諾取得や管理等のしっかりとした信頼性の高いサービスであるかもしっかりとチェックすることが大事です。
・専門知識が必要なデータが否かをチェック
ローデータの分析は、データ解析のスキルが必要になることが多いです。一方、既に加工された人流データや、加工済の人流データを可視化までできるツールの場合は、特に専門的な知識がなくとも容易に分析が可能です。
専門知識が必要なのか、解析のスキルがなくとも誰でも活用できるツールなのか、自分たちの目的を達成できるサービスなのか等、サービスを選択する際に事前にチェックをしましょう。
人流データを分析するときのポイント
人流データを分析する際は、以下のポイントを押さえておきましょう。
・明確な目標設定をする
人流データの活用には、店舗への集客増加、観光地の誘客、公共施設の利用率向上など、さまざまな目的があります。それぞれの目的に応じて、SMART原則を踏まえた具体的な目標設定が重要です。
目的を明らかにせず、やみくもにデータを集めて分析してみても、数字の羅列になってしまい、施策に活かせる知見を得ることは困難です。 分析する前の課題抽出、どんな人流データを分析すればどんな解決策が出せそうかの仮説立案といったように、とるべきデータやその活用までを明確にしておくことが、ビジネス活用への近道とされています。
・データの特性を把握し、目的に合ったデータを選ぶ
人流データは、GPSデータや携帯電話基地局データ、Wi-fiやビーコン等、様々な種類があり、それぞれデータに特性があります。
2.人流データの種類(取得方法別)
3. 種類別でみる人流データ活用のメリット・デメリット
上記の章で述べているような個々のデータの特性を踏まえ、自社の課題解決にはどのデータが適切かを判断しデータやツールを選ぶことが重要です。
・長期な視点で分析する
ある期間だけスポットで分析するより、長期的に人流を観測していくことで来訪者や滞在人口の傾向を把握でき、精度の高い分析ができるようになります。
また、1回のデータ収集では知りたかったことが見えず、条件を変えて何度も分析することが必要になるケースも多くあります。
データやツールを選択する際は、“長期利用”や“複数利用”のしやすさを考慮してみてもよいかもしれません。
【業界別】人流データの活用例(基礎編)
■ 小売・サービス業
・出店エリア分析(店前や周辺の直近の通行量を把握でき、売上予測の変数として活用)
・自社/競合店舗の顧客分析(性別・年代等の属性が分かる人流データの活用により客層や客足を把握し、MDや販促戦略に活用)
・自社/競合店舗の商圏分析(店舗来訪者の居住地を把握し、リアルな商圏サイズを把握)
・混雑状況の把握や防犯対策(ビーコン等で店内の混雑状況の把握、AIカメラ等で不信な動きの検知等も実現)
■ 飲食業
・店舗のポテンシャル評価(店前や周辺の通行量を把握し、ポテンシャル評価に活用)
・広告配布エリア分析(自社や競合店舗への来訪者の居住地を把握し、販促エリアを最適化)
■ 不動産デベロッパー
・既存店分析(自施設の客層や客足を把握。テナント誘致や施設運営に活用)
・競合店分析(競合の店舗や施設への来訪者を把握し、自施設の店舗運営、販促施策に活用)
■ メーカー・広告代理店
・クライアントへの販促提案(広告主および競合店舗の来訪者分析をもとに、販促エリアを最適化)
・リテールサポート(店舗の来訪者や来訪の多い時間帯の把握により、MDや販促キャンペーン提案に活用)
・OOH媒体のオーディエンス把握(屋外広告周辺に集まる人や、媒体前道路の通行量を把握し、媒体選定時の検討材料に活用)
■ 自治体
・コロナ禍における人流モニタリング(人流の定点観測、繁華街等の滞在人口分析、大型連休時の観光エリア混雑状況把握等)
・観光動態の把握(観光エリアやスポットの混雑状況や回遊率、来訪者の属性を把握し、周遊ルート最適化や観光PR施策に活用)
【業界別】人流データの活用例(応用編)
■ 建設コンサルタント
・パーソントリップ調査(パーソントリップ調査の補完データとして対象エリアの人流データを活用)
・再開発エリアの現況把握と効果測定(開発前後の人流を分析し、現況把握や開発施策の効果測定に活用)
■ 大学・研究機関
・人流データの予測モデル構築(新型コロナウイルス拡散のモデル化や、スマートシティ計画における人流変化の予測等、モデルに投入する変数として人流データを活用)
■ 金融 シンクタンク
・工場の稼働状況の推測(工場に滞在する人流を分析し、工場の稼働状況を推測。企業の景況分析等に活用)
・繁華街の人出から景況を探る(景気と相関関係の高い人流を、主要エリアにおいて定点観測し、景況分析に活用)
■ 交通機関
・バス路線の新規開発(対象エリアの人流を把握し、需要の高そうな路線の新規開発に活用)
・交通機関利用者の需要分析(通勤・通学の人流を分析し、利用ニーズの高いエリア選定等に活用)
当社の人流データ分析事例
人流データの活用例として、当社システムを活用した分析事例をご紹介します。
■ 観光地の人流・周遊行動分析(2021年10月)
新型コロナウイルスのワクチン普及や感染者の全国的な減少を受け、アフターコロナを見据えた観光地づくりの需要が高まりつつあった2021年秋に実施した自主調査事例です。人流データを活用し、観光地の対策・施策に役立つ観光スポットの人流傾向や周遊状況をレポートしています。
〇 詳細はこちら:位置情報データでひも解く観光地の人流・周遊行動レポート
■ 投資情報としてのGPS位置情報(人流)データ(2020年1月)
「投資情報としてのGPS位置情報データ」と題して、位置情報ビッグデータを使った景況把握を紹介します。
〇詳細はこちら:投資情報としてのGPS位置情報データコラム
人流データ活用の海外事例
海外では、位置情報は個人情報保護の観点からセンシティブな情報と捉えられるものの、AIの発達に伴い人流データの活用も活発に行われています。シンプルに位置情報を活用するだけでなく、人流データと様々なデータと組み合わせることで、より詳しいインサイトを得てビジネスに活用している印象を受けます。
ここでは、人流データ活用の海外事例を紹介します。
■ 渋滞中のドライバーの位置情報を捉え、移動中の車にフードデリバリー
某ハンバーガーチェンが、渋滞が激しいエリアにサイネージ広告を出し、移動中の車に商品をデリバリーするキャンペーンを実施しました。
オーダーを受けるとGoogle Maps APIを使ったシステムで車の位置情報を把握し、配達員が商品をバイクで届けるという仕組み。渋滞に悩むドライバーに好評のキャンペーンとなったようです。
Burger King Mexico「LA TRAFFIC WHOPPER」
■ 精緻な位置情報で、人流をより精緻に可視化
GPS等の位置情報は、ビル等の屋内のフロア別に時流を把握することが難しい傾向にありますが、海外ではGPSにそのほかの位置情報を補完することで、高精度な位置を把握することが可能になっています。
例えば、店舗に入った瞬間に入店を感知しタイムセール情報を配信したり、滞在時間を精緻に計測して待ち時間に応じた割引クーポンを配信したり、人の行動に即して適切なタイミングで顧客接触を実現するサービスも登場しています。
無料で公開されている人流データ(オープンデータ)
無料で公開されている人流データはいくつか種類があり、それぞれデータの取得方法や提供方法、カバー範囲などが異なります。ここでは、国や政府が提供している代表的なものをいくつかご紹介します。
(1)「全国の人流データ(1kmメッシュ、市町村単位発地別)」
• 提供:国土交通省
• データソース: 携帯電話端末などの位置情報データ
• 提供形式: 1kmメッシュ、市町村単位の発地別データ
• 期間: 2019年1月から2021年12月まで
• 特徴: 広域的な人流の把握に適している。過去のデータとなる。
• 公開サイト:G空間情報センター(外部リンク)
(2)「RESAS(Regional Economy Society Analyzing System)」
• 提供: 内閣官房、経済産業省
• データソース: 政府統計、地方自治体データ等
• 内容: 人口、産業、観光、農業、地域資源、都市計画、医療・福祉など、幅広い分野のデータを提供。
• 特徴: 年単位の更新が多く、地域経済の構造を長期的な視点で分析するのに役立つ。
• 公開サイト:https://resas.go.jp/#/13/13101(外部リンク)
(3)「RAIDA(デジタル田園都市国家構想 データ分析評価プラットフォーム)」
• 提供:内閣官房
• データソース: RESASデータ、公的統計、オープンデータ、民間企業データ等
• 内容: 人流データに加え、消費、観光、企業業績など幅広いデータを提供
• 特徴:データに基づいた地域課題の把握と分析を支援し、地方創生施策の効果的な実施を後押しするプラットフォーム。
RESASを基盤とし、デジタル田園都市国家構想の推進に特化した機能が追加されている。
• 公開サイト:https://raida.go.jp/(外部リンク)
オープンデータ活用時の注意点
• データの鮮度
リアルタイムデータと過去のデータがあるため、利用目的に合わせて選択する必要があります。
• データ範囲
有料データであれば、任意のエリアやスポットに絞った人流データが確認できますが、無料データの場合提供されているデータの範囲(地域、時間など)を確認する必要があります。
• プライバシー
これらのデータは匿名化されているものの、利用にあたってはプライバシーに配慮する必要があります。
おわりに
さて、本コラムでは、人流データの活用についてのほんの一部をご紹介いたしました。
人流データは、単に人の流れやボリュームを追えるだけでなく、どんな人の流れなのかといった属性や時系列での変化等、より幅広い視点で分析することで、そのエリアや施設・店舗の使われ方や来訪者のニーズ等も推測することができ、またその他のデータと組み合わせて分析することでも多くの示唆を得ることができます。
また、今回のコラムでは、当社開発の人流分析ツール「KDDI Location Analyzer」を使った具体的な事例などもご紹介しましたが、当社では他にも人流が分かる様々な位置情報データを取り扱っております。
それぞれ、用途により適するシステムやデータが変わってきますので、詳細説明をご希望の方はお問い合わせください。
〇 定額制人流分析システム「KDDI Location Analyzer」詳細はこちら
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監修者プロフィール
市川 史祥
技研商事インターナショナル株式会社
執行役員 マーケティング部 部長 シニアコンサルタント
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医療経営士/介護福祉経営士 流通経済大学客員講師/共栄大学客員講師 一般社団法人LBMA Japan 理事
1972年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。不動産業、出版社を経て2002年より技研商事インターナショナルに所属。 小売・飲食・メーカー・サービス業などのクライアントへGIS(地図情報システム)の運用支援・エリアマーケティング支援を行っている。わかりやすいセミナーが定評。年間講演実績90回以上。 |
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