エリアマーケティングラボ

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人流データとは?取得方法や分析データのマーケティング活用事例を業界別に紹介

2023年9月6日号(Vol.112)※2025年4月11日更新

はじめに

人流データは、人々がどのように移動しているかを把握できるデータです。ビジネス活用では、顧客行動の理解、マーケティング施策の立案、競合調査、店舗立地分析など様々な場面で役立てることができます。
人流データの解析には、分析手法や留意点など、一定の知識が必要です。しかし、正しく活用すれば、ビジネスの精度を大幅に向上させる強力な武器となるでしょう。

今回のコラムでは、位置情報を基にした人流データの活用について、データの種類や取得方法、業界別の利用例や実際の具体事例、無料で使えるオープンデータなどを紹介します。
※本コラムは、2025年4月に一部内容を更新いたしました。


目次(▶をクリックすると詳細な目次が表示されます)
1.人流データとは
2.人流データから分かること
3.人流データの取得方法
4.人流データの活用方法
5.【業界別】人流データの活用事例
6.無料で公開されている人流データ(オープンデータ)
7.人流データを活用する際の注意点
8.おわりに

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人流データとは

スマートフォンのGPS位置情報やWi-Fi、ビーコン等を通じて収集・分析された人の動きや流れを示すデータです。人流データを活用することで、人が移動する時間や場所、人の流れのボリューム、各エリアや施設・店舗内での人の動きや滞在時間等を把握できるようになります。

人流とは

そもそも人流(じんりゅう)とは、「人の流れ」を意味する言葉です。下記のような人の移動、滞在、人数、混雑具合など、現象としての人の動きを表します。

• 人の移動: ある場所から別の場所へ人が移動する動き
• 人の滞在: 特定の場所に人がとどまること
• 時間と場所: いつ、どこで、どのくらいの人が移動・滞在しているかという情報

人流という人々の移動や滞在に関する現象を数値化・データ化したものが人流データです。
人流データは、近年スマートフォンの普及や位置情報技術の発展により取得・分析されることが増えており、都市計画、交通管理、防災対策、そしてマーケティングなど、様々な分野で活用されています。

人流データの活用が注目されている理由

人流データの活用が注目されている主な理由は、以下の4点があげられます。

高精度なデータ取得:
デジタル技術とモバイル端末の普及により、以前は困難だった精度の高い位置情報が容易に取得できるようになったため。
社会的認知度の向上:
コロナ禍での混雑状況把握や行動制限の効果測定等、人流データが社会課題の解決に役立つ認知が広がったため。
解析の容易化:
AIの進化により、専門知識がなくても大量の人流データを容易に分析できるツールが登場したため。
マーケティングへの親和性:
顧客行動の理解、商圏分析、効果測定など、マーケティング施策への応用範囲が広く、効果も期待できるため。


【関連記事】時間帯や曜日の特徴も分かる!位置情報データでひも解く観光地の人流・周遊行動|GPS位置情報分析例(第5回)



人流データから分かること

位置情報等のデータを用いると常に最新の人流を把握できるため、人口動態の把握に最適といわれています。こうしたタイムリーな人流の把握は、民間のエリアマーケティングや官公庁・自治体の都市計画、観光分析、防災計画等において、機動的な戦略立案のためのエビデンスとして活用されています。

■ 来訪者の推移

特定の施設やエリアに来訪する人のボリュームを時系列で把握できます。
従来の人力による出口調査等と比べて、リソースを割かずに机上でデータを定点観測すれば、簡単に人流の推移を把握できるようになります。

人流データによる来訪者推移グラフ
とある3施設の来訪者推移の時系列比較

■ どんな人が来ているか

スマートフォンの位置情報等を活用した人流データの場合、端末の契約者情報等から性別や年代等の属性を紐づいていることがあるため、来訪者の属性を分析することも可能です。
また、滞在している時間や長さにより、来街者なのか勤務者なのか居住者なのか等の推測も可能です。

人流データによる来訪者属性分析
店舗別年齢別来訪者数

■ どこから、どれくらいの人が来ているか

例えば、夜間に滞在している位置情報から推定の居住地を把握できるため、どこから来訪しているかといった分析も可能となります。
また、位置情報データの移動速度等を加味し、徒歩なのか自動車なのか等の移動手段も提供サービスによっては分析可能な場合があります。

人流データによる来訪者居住地分析
複数店舗間の来訪者居住地分布地図

■ 施設や店舗、観光スポット等の併用状況や回遊状況

GPSデータ等の位置情報の活用で、例えば観光地にいくつかある観光スポットをどのように回遊・併用しているのか、混雑しているエリアはどこか等を把握することができます。GPSデータ等は館内のフロア毎の人流把握等は難しいとされていますが、ビーコンやカメラ等を活用すると、施設内や店舗内等の屋内の人流を細かく把握することも可能です。

人流データによる来訪者居住地分析
指定した複数店舗間の来訪者居住地分析イメージ



人流データの取得方法

人流データの取得方法は、大きく分けて携帯電話基地局、GPS、Wi-Fi、ビーコン、カメラの5種類に分類されます。
各取得方法には、精度、カバー範囲、取得できるデータの特徴、適した用途、そして利用する上での制限事項において、それぞれ異なる強みと弱みがあります。
人流データを活用する際は、それぞれの強み弱みを把握したうえで、目的や状況に応じて最適な取得方法を選択することが重要となります。


携帯電話基地局 GPS Wi-Fi

ビーコン

カメラ
精度 中程度
(数百m~)
高精度
(数m~)

中程度

高精度
状況による
(画像解析精度)
カバー範囲 広域(全国) 中程度(屋内) 施設・店舗 設置個所周辺 設置場所限定

データ取得
の特徴

契約者の大まかな位置情報を広範囲に取得可能。リアルタイム性は比較的高い。匿名化処理されたデータが一般的。

スマートフォンなどのGPS機能を利用し、ピンポイントな位置情報取得や属性情報との紐付けが可能。

Wi-Fiアクセスポイントへの接続情報を利用し、比較的広範囲で屋内でもある程度の位置情報を取得可能。

近距離無線技術を利用し、ビーコン設置場所周辺の高精度な位置情報を取得可能。受信側の端末が必要。

撮影映像の画像解析により、人数、属性、移動方向等を把握可能。リアルタイムな状況把握に有効。

適した用途 都市計画、地域間の動態分析、災害時の避難状況把握、マクロなエリアマーケティング分析
個人の移動経路分析、特定の場所への来訪分析、高精度なナビゲーション、ターゲットの行動把握等
商業施設や駅構内当での滞在時間分析/回遊分析、特定エリアへの流入・出分析、施設利用者の行動把握
店舗内回遊分析、特定商品前での滞在時間計測、イベント会場内の行動追跡、工場内の作業員の位置管理等
店舗や施設内の人数カウント、混雑度分析、顧客属性の分析、特定範囲内の異常行動検知や動線の可視化
デメリット

屋内や密集地での精度低下、詳細な行動追跡には不向き

屋内や地下の精度は低い。
特定アプリユーザーに限定

Wi-Fi設置エリア内に限定される。接続時のみデータ取得可能

専用アプリ必要、カバー範囲が狭い、設置・管理コストがかかる

プライバシーへの配慮、天候・照明条件、解析技術による精度変動、設置場所の制約
※ 一般的な目安としての情報であり、技術や環境によって変動します。

■ 携帯電話基地局

携帯電話が基地局と通信する際の情報を利用し、広範囲な人流データを取得する方法です。
携帯電話基地局は、全国規模の広範囲なデータ取得をカバーしますが、位置情報の精度は比較的粗いため、詳細な位置特定には不向きです。都市計画や動態分析、防災計画等、広域における人々の動きを把握するのに適しています。

メリット:
1. 広域データ取得: 全国レベルでの人の流れを把握するのに適する
2. 継続的なデータ取得: 携帯電話の電源が入っていれば、継続的にデータ取得が可能
3. 匿名化データ: 通常、個人が特定できないように匿名化処理されたデータが提供される

デメリット:
1. 精度の限界: 詳細な行動追跡やピンポイントなエリア分析は不向き
2. 屋内での精度低下: 建物内や密集地では精度が低下

■ GPS

GPSを搭載したスマートフォンやウェアラブルデバイスの位置情報を取得する方法です。数メートル程度の高精度で緯度経度、速度、方向、時間などの位置情報を取得でき、詳細な移動経路や行動分析が可能になります。
具体的には、観光客のルート分析や交通経路の最適化、店舗や施設(建物全体)の来訪者分析等に活用されています。

メリット
1. 高精度な位置情報:詳細な移動経路や特定の場所への訪問等の分析に適する
2. 多様な情報取得: 移動速度、移動方向、時間情報等も取得でき、多角的な分析が可能。
3. 広範な利用可能性: 多くのデバイスにGPS機能が搭載されており、比較的容易にデータ収集が可能

デメリット
1. 屋内での精度低下:屋内や地下、高層ビル街などでは精度が大きく低下
2. データサンプル数: データ取得元が特定アプリユーザーに限定され、かつ利用許諾が必要

通信キャリアのサービス例:
KDDI Location Analyzerは、GPS位置情報ビッグデータ ※ および属性 (性別・年齢層等) 情報を搭載したクラウド型GIS(地図情報システム)。定額で何度でも、店舗や施設、特定エリアの来訪者数や時間帯・平休日別傾向、来訪者属性等を分析できます。多店舗展開のチェーン企業や消費財メーカー、各種サービス業、商業開発のデベロッパー、自治体、金融・不動産向けのコンサルタントが活用する人流分析ツールとして導入が進んでいます。
〇詳細はこちら:https://www.giken.co.jp/service/kla/

※ 位置情報ビッグデータとは、KDDIがauスマートフォンユーザー同意のもとで取得し、誰の情報であるかわからない形式に加工した位置情報データおよび属性情報 (性別・年齢層等)を指します。

■ Wi-Fi

Wi-Fiアクセスポイントに接続したデバイスの位置情報を取得する方法です。屋内や商業施設、駅等に設置されたWi-Fiアクセスポイントに接続した端末(スマートフォンなど)の情報を利用して人の流れを把握します。
利用者が施設内のWi-Fiに接続すると、その接続情報(例:端末のMACアドレス、接続時刻、接続場所)が記録されます。記録された接続情報を分析することで、施設内の人の流れ、滞在時間、混雑状況などを把握します。

メリット
1. 屋内での有効性: Wi-Fi信号は建物内でも比較的安定して受信できるため、GPSが不得意とする屋内での人流把握に適する。
2. 既存インフラの活用: 既に設置済のアクセスポイントを活用できる場合、新たな機器設置のコストを抑えらる

デメリット
1. カバー範囲の限定: データ収集範囲がアクセスポイントの電波が届く範囲に限られる。
2. データ精度: 電波干渉等の影響で位置情報の精度が低下する場合がある。

■ ビーコン

Bluetooth Low Energy (BLE) を用いたビーコンを設置し、デバイスがビーコンと通信する際に発生する情報を取得する方法です。施設内にビーコンを設置することで、デバイスを持つ人の位置や移動履歴を把握できます。これにより、人の流れや滞在時間などの人流データを収集できます。
店舗内のクーポン配信や回遊分析、展示会やイベント会場での案内、工場内の作業員の位置管理等、幅広い活用が期待されています。

メリット
1. 精度:近距離での高精度な位置情報を提供できる(数mから数十cmの精度も可能)
2. リアルタイム性:顧客のスマートフォンにリアルタイムで情報(クーポン等)やアクション(会場誘導等)を促せる。

デメリット
1. 設置コスト: 機器は比較的安価だが、数や規模によって設置・管理コストがかかる場合がある。
2. デバイス側の負荷:専用アプリのインストールやBluetoothを有効にする必要がある。
3. 運用工数: ビーコンは電池で動作するものが多く、定期的な電池交換などのメンテナンスが必要。

■ カメラ

カメラ映像による人流データの収集・分析は、主に防犯カメラや監視カメラ等の映像から人の動きのデータがソースとなります。スマートフォン等のデバイスに依存せず、撮影範囲内の人々の動きを捉えることが特徴です。AIの進化により、人数カウント、属性推定、動線分析などの精度が向上し、多様な情報取得が可能になっています。
店舗や施設では混雑状況の把握、顧客行動の分析、店内レイアウト最適化等に、公共空間では交通誘導や防災に役立ちます。

ただし、プライバシー保護は重要な課題となります。利用目的の明確化、匿名化処理の徹底、適切なデータ管理体制、個人情報保護に関する法令遵守が不可欠です。

メリット
1. 非接触:包括的なデータ取得:カメラの撮影範囲内のすべての人を対象にデータを取得できる。
2. 多様な情報取得:人数、性別、年代、移動方向、滞在時間等、様々な情報を取得可能。
3. リアルタイム性:カメラ映像をリアルタイムで解析すれば、混雑状況や人の流れを即座に把握できる。

デメリット
1. プライバシーリスク:個人の顔等の情報が含まれるため、適切な秘匿化処理やデータ管理体制が不可欠
2. 設置場所の制約:カメラの設置場所や撮影範囲に制約があり、広域の把握には多数のカメラ設置が必要。
3. 環境条件の影響:天候、照明、時間帯等の条件により、映像の質や解析精度が影響を受ける。


人流データの活用方法

人流データの活用方法について、以下のステップに沿ってご紹介します。

1. 分析目的の明確化と計画の立案
2. 必要なデータの収集と前処理
3. 収集データの多角的な可視化
4. 高度な統計分析を利用したパターンの発見
5. 分析結果の解釈と傾向の発見
6. 分析結果に基づく施策の実行と効果測定

ステップ1:分析目的の明確化と計画の立案

人流データ活用において、最初のステップである「分析目的の明確化と計画の立案」は、成功の可否を左右する重要な工程です。まず、人流データを活用して何を達成したいのか、具体的な目的を定めます。

例) ・小売店: 「特定の時間帯の顧客の購買行動を分析し、売上を10%向上させる」
   ・商業施設: 「新規テナントの配置を最適化し、施設全体の回遊率を20%増加させる」

SMART原則に基づいた目標設定が有効とされています。下記の原則に沿って、具体的な目標を設定しましょう。
SMART原則:
Specific(具体的): 誰が、何を、いつ、どこで、どのように行うのかを明確にする
Measurable(測定可能): 目標達成度を測るための指標を設定する
Attainable(達成可能): 現実的に達成できる目標を設定する
Relevant(関連性がある): 組織の戦略や上位目標と関連性がある
Time-bound(期限がある): いつまでに達成するのか期限を設ける

最後に、目的に合わせた計画を立案します。計画には、以下の要素を含めることが重要です。
必要なデータの種類: 取得方法(GPS、Wi-Fi等)、属性情報(年齢、性別等)の精査
分析期間: データの取得期間と分析期間の明確化
予算: データ取得・分析にかかる費用(システム導入費、人件費など)算出
分析体制: 分析に必要なスキルや人員の確保
期待される効果: 期待される成果の数値設定

これらのステップを踏むことで、人流データ活用プロジェクトを成功に導くための基盤を築くことができます。

ステップ2:必要なデータの収集と前処理

第2ステップである「必要なデータの収集と前処理」について紹介します。

1. 目的に合わせた人流データの選定
•広範囲の人流把握の場合: 携帯電話基地局データが適する
•特定施設内での詳細な行動分析の場合: Wi-Fiやビーコンデータが有効
•屋外の移動経路を正確に把握したい場合: GPSデータが適する
•人数カウントや属性情報を取得したい場合: カメラ映像データが役立つ 等
複数のデータソースを組み合わせることで、より多角的な分析が可能になる場合もあります。

2. データ収集時の法的・倫理的配慮
人流データには、個人の位置情報や行動履歴が含まれるため、プライバシー保護が重要です。
プライバシー保護がされていないデータを使う場合は、自ら下記の配慮を行う必要があります。
•個人情報保護法等の遵守: 国内外の関連法規制を遵守した必要な手続きが必要
•ユーザーの同意取得: GPSデータ等を取得する場合は、ユーザーから明確な同意許諾が不可欠
•匿名化処理: 個人を特定できないようにデータを加工することが必要
•利用目的の明確化: データの利用目的を明確にし、目的外利用を避ける
•セキュリティ対策: データの漏洩、紛失、改ざん等を防ぐため、適切なセキュリティ対策の措置が必要

3. 収集したデータの前処理
収集したデータは、そのままでは分析に適さない場合があります。下記のような前処理を行うことで、データの品質を高め、分析精度を向上させることができます。

•データクレンジング:
欠損値の処理(削除、補完など)、誤ったデータやノイズの除去、重複データの削除、表記の統一(例:単位の統一、表記ゆれの修正)等
•データ統合:
複数のデータソースからのデータを結合する、データの粒度を合わせる、異なる形式のデータを統一する等
•データ形式変換:
分析ツールで扱いやすい形式へのデータ変換(例:CSV、JSON)、日付/時刻等の形式の統一、データの集計・集約等

これらの前処理を行うことで、より正確で信頼性の高い分析を行うことが可能になります。

ステップ3:収集データの多角的な可視化

人流データの可視化は、分析結果の理解と活用に不可欠です。

•ヒートマップ: 混雑度を直感的に把握。エリア分析に有効。
•時系列グラフ: 経時変化を明確化。イベント効果測定などに活用。
•動線分析: 移動経路を可視化。店舗レイアウト改善に貢献。
•3Dマッピング: 立体的な流れを表現。都市計画などに活用。
•バブルチャート: 複数要素を比較。全体傾向を把握。

下記にある各手法毎の「適した用途」、「メリット」、「注意点」を参考に、適切な可視化で人流データを最大限に活用しましょう。
可視化手法

適した分析内容

メリット 注意点
ヒートマップ

密度分布、混雑度、滞在状況

一目で密集度がわかる、直感的で理解しやすい、色の濃淡で変化が把握しやすい

細かい動きは把握しづらい、定量的な数値比較が難しい場合がある

時系列グラフ

時間変化、周期性、トレンド把握

変動パターンが明確、定量的な比較が容易、長期的な傾向が把握しやすい

空間情報が限られる、複数地点の比較では煩雑になりやすい

動線分析

回遊行動、移動パターン、周遊ルート

移動パターンを把握できる、来訪者の行動を視覚的に理解できる

データ量が多く必要、プライバシー配慮が必要、解析に時間がかかる

3Dマッピング

立体的な空間把握、フロア間移動

複数階層の建物での人流を立体的に表現できる、視覚的インパクトが大きい

作成コストが高い、解釈に専門知識が必要、データ処理負荷が大きい

バブルチャート

複数要素の関係性比較、属性別分析

複数の変数を同時に表現できる、サイズや色で追加情報を表現可能

情報が多すぎると理解しづらくなる、正確な数値比較が難しい


(多面的なデータ分析に役立つダッシュボード構築のポイント)
多面的データ分析のためのダッシュボード構築では、まず「利用目的」と「ユーザー」を明確にし、必要な情報とデザインを最適化します。次に、売上、混雑度など、分析目的に合わせた重要な指標(KPI)を選定し、それらを効果的に示す可視化手法(グラフ、地図など)を組み合わせます。

操作性と情報アクセスを考慮したUI/UX設計も重要で、期間選択やフィルタリング等の機能でユーザー自身がデータを探索できるようにするとよいでしょう。データの鮮度を保つために、リアルタイム/定期更新等の仕組みを導入することも有効です。

さらに、人流データだけでなく売上等の関連データも統合することで、より深い分析が可能になります。これらの要素をバランス良く組み合わせ、人流データを最大限に活用できるダッシュボードを目指しましょう。

ステップ4:高度な統計分析を利用したパターンの発見

人流データ分析をより高度にするためには、統計的手法とAI・機械学習が重要な役割を果たします。

(統計分析の利用)
人流データは、様々な統計的手法を用いることで、より深い洞察を得ることができます。
•時系列分析: 人流の周期性(日/週周期、季節変動等)やトレンドを分析し、将来の人流を予測
•空間分析: 人流の空間的な分布や、特定の場所への集中度合いを分析
•回遊分析: 人々がどのような経路で移動し、どのような場所を訪れるかを分析
•クラスタリング分析: 人々の行動パターンに基づいてグループ分けを行い、グループ毎の特徴を把握
•相関分析: 人流と他のデータ(売上、天気、イベントなど)との関係性を分析

これらの手法を用いることで、店舗の売上予測に基づいた人員配置の最適化、混雑緩和のための交通インフラの改善、効果的な広告配信のためのターゲット顧客の抽出等が可能になります。

(AI機械学習の活用)
AI・機械学習は、大量データから複雑なパターンを自動認識し、予測や分類を可能にします。人流データへの主な活用として3つご紹介します。

•異常検知: 通常とは異なる人流パターンを検知し、事件事故や災害発生の可能性を通知
•行動予測: 過去のデータから学習したモデルに基づいて、将来の人流を予測
•顧客セグメンテーション: 顧客の行動パターンを分析し、最適なマーケティング施策を立案

AIや機械学習の活用により、人流データ分析の精度が向上し、より高度な意思決定を支援することが可能になります。

ステップ5:分析結果の解釈と傾向の発見

人流データ分析の結果を解釈する段階では、客観的なデータからビジネス上の洞察を得ることが重要です。
ここでは、解釈や傾向の発見に役立つポイントを紹介します。

1. 客観的データからビジネス価値のある洞察への変換
分析結果を整理し(例:ピーク時間、行動パターン)、背景要因を考察します(天候、イベント)。そして、これらがビジネスにどう影響するかを評価(顧客満足度低下、売上機会損失)、具体的なアクションを提案します(人員配置の見直し、キャンペーン実施する等)。

2. 業界別の解釈の視点の違い

同じデータを解釈する場合でも、業界ごとに視点が異なります。
•小売の視点: 店舗レイアウトや商品配置、店内人員配置や在庫管理、競合店舗の客足・客層等
•不動産の視点: 集客力評価、通勤経路分析、人口動態予測、建物の需要評価等
•観光の視点: 周遊ルート分析、混雑予測、属性別プロモーション等
•公共サービスの視点: 利用状況分析、避難経路把握、施設最適化等


3. 相関と因果の区別
相関関係(関係性がある)と因果関係(原因と結果)は別物です。相関関係が見られても、安易に因果関係があると判断せず、①他の要因を考慮する、②実験や調査などで因果関係を検証する、③分析の目的と照らし合わせ、必要な範囲で解釈を行う、これらの点を踏まえることで、人流データ分析から得られた情報をより正確かつ効果的に活用することができます。

ステップ6:分析結果に基づく施策の実行と効果測定

人流データ分析の最終段階では、分析結果を具体的な施策に活用し、効果測定と継続的な改善を行うことが重要です。

1. 施策実行
分析結果に基づき、小売業なら店舗レイアウト最適化や販促策実施、都市計画なら交通インフラ改善や都市開発などの施策を実行します。

2. 効果測定とPDCAサイクル
施策の効果をKPI(売上、交通量など)で測定し、分析結果と比較して評価。改善点を見つけ、改善策を実行、再度効果測定というPDCAサイクルを繰り返すことで、人流データ分析の効果を最大化し、継続的な改善につなげます。


【業界別】人流データの活用事例

ここでは、主に飲食、不動産、マーケティングコンサル、広告代理店等における人流分析の事例をご紹介します。

【飲食業界】店舗周辺の人の流れを把握し、売上予測モデルの精度をアップ

人流データは、チェーン企業の売上予測モデルの精度向上に大きく貢献する可能性を秘めています。
例えば、店前をどの程度の人が通っているかを示す「店前通行量データ」が手間なくすぐに取得できるようになります。店前通行量データは来店客数の予測に有効なため、売上予測モデルの変数の一つとして活用することで予測モデルの精度をアップさせることに寄与します。

(飲食業界での具体事例)
丸亀製麺をはじめとする飲食チェーンを運営されるトリドールホールディングスでの、人流データ活用事例です。
店舗開発において、売上予測の精度向上と、より実態に即したデータ活用が課題となっていた同社は、GPS位置情報データを活用できる「KDDI Location Analyzer」を採用。これにより、商業エリアの分析精度が高まり、出店判断におけるリスク低減に貢献しています。
また、コロナ禍のような予測困難な状況下においても、エリアの変化を迅速に捉え、柔軟な対応を可能にする効果もあるとしています。エリアマーケティングにおける人流データ活用に関心をお持ちの方にとって、示唆に富む事例となるでしょう。

〇事例詳細はこちら
https://www.giken.co.jp/case-study/toridoll_kla/

【マーケティング】顧客と競合の店舗を解析し、ユーザー視点の店舗づくりを実施

人流データの活用で、自社店舗や競合店舗の来訪者分析が容易になります。
性別や年代等の属性が紐づく人流データを活用すれば、どこから来ているか、どんな人が来ているかをデータで把握できるため、自店舗や競合店舗の客層・客足の違いも把握できます。

(マーケティング支援会社の具体事例)
小売・食品業界向けコンサルティングを手掛ける株式会社アットテーブルにおける人流データ活用事例です。
同社は、顧客企業の店舗と競合店の来訪者や商圏の比較が難しいという課題がありました。そこで、人流データを活用できる「KDDI Location Analyzer」の導入により、自店舗と競合店の顧客の居住地や属性情報をタイムリーに把握し、比較分析を容易に行うことが可能になりました。
この結果、データに基づいた客観的な分析を通じて、顧客視点での店舗づくりをロジカルに支援できるようになっています。

〇事例詳細はこちら
https://www.giken.co.jp/case-study/attable/

【不動産】人流データの活用で顧客ニーズに寄り添った提案を実現

エリアのポテンシャルを測る指標として、経験則や鮮度が高くない統計データだけではなく、タイムリーな人流データも合わせて活用することは、結果の納得度が違うとして注目を詰めています。
特に。商業エリアなど変化の激しい場所の評価には、街の現状が捉えられる人流データの活用は不可欠となっています。

(不動産業界での具体事例)
国内外で幅広い不動産サービスを展開するシービーアールイー株式会社は、これまで人手による通行量調査に依存していましたが、調査地点や期間に制約があり、データ蓄積や比較に課題がありました。
人流データを容易に収集できる「KDDI Location Analyzer(KLA)」の活用により、継続的かつ多角的なエリア分析を実現しました。特に、KLAの通行人口データと自社の不動産賃料データを組み合わせることで、物件のポテンシャルを可視化し、顧客への提案力を向上させています。

〇事例詳細はこちら
https://www.giken.co.jp/case-study/cbre/

【総合プロモーション】店舗の客足・客層を把握し販促エリアを最適化

人流データは店舗来訪者の居住地や属性が分かるものもあります。
そのような人流データを活用すれば、店舗の客足や客層を手軽に把握できるようになります。
時系列や昨対比、競合比較等も手軽に調査できるようになり、「どこにチラシや広告を打てば、効率よく顧客を獲得できるか」を分析できます。

(総合プロモーション会社の具体事例)
リテール企業向けに店舗マーケティング・プロモーションを展開する株式会社電通tempoによる人流データ活用事例です。
以前は、人流データは“データ購入方式”で活用していましたが、分析エリアや条件の変更の度にコストと時間がかかっていたため、定額制で自由に人流データを収集・分析できる「KDDI Location Analyzer」を導入。これにより、店舗の客層把握、販促エリアの最適化、キャンペーン効果測定などが容易になり、顧客への提案精度向上と、PDCAサイクルの迅速化を実現しました。

〇事例詳細はこちら
https://www.giken.co.jp/case-study/dentsu-tempo/

位置情報データ活用事例資料のCTA

無料で公開されている人流データ(オープンデータ)

無料で公開されている人流データはいくつか種類があり、それぞれデータの取得方法や提供方法、カバー範囲などが異なります。ここでは、国や政府が提供している代表的なものをいくつかご紹介します。

(1)「全国の人流データ(1kmメッシュ、市町村単位発地別)」

• 提供:国土交通省
• データソース: 携帯電話端末などの位置情報データ
• 提供形式: 1kmメッシュ、市町村単位の発地別データ
• 期間: 2019年1月から2021年12月まで
• 特徴: 広域的な人流の把握に適している。過去のデータとなる。
• 公開サイト:G空間情報センター(外部リンク)

(2)「RESAS(Regional Economy Society Analyzing System)」

• 提供: 内閣官房、経済産業省
• データソース: 政府統計、地方自治体データ等
• 内容: 人口、産業、観光、農業、地域資源、都市計画、医療・福祉など、幅広い分野のデータを提供。
• 特徴: 年単位の更新が多く、地域経済の構造を長期的な視点で分析するのに役立つ。
• 公開サイト:https://resas.go.jp/#/13/13101(外部リンク)

(3)「RAIDA(デジタル田園都市国家構想 データ分析評価プラットフォーム)」

• 提供:内閣官房
• データソース: RESASデータ、公的統計、オープンデータ、民間企業データ等
• 内容: 人流データに加え、消費、観光、企業業績など幅広いデータを提供
• 特徴:データに基づいた地域課題の把握と分析を支援し、地方創生施策の効果的な実施を後押しするプラットフォーム。
   RESASを基盤とし、デジタル田園都市国家構想の推進に特化した機能が追加されている。
• 公開サイト:https://raida.go.jp/(外部リンク)




人流データを活用する際の注意点

人流データは取得時と分析時に以下の項目に注意する必要があります。

・プライバシー保護、個人情報漏洩対策

人流データには個人を特定する可能性のある関連データが複数紐づいている場合が多く、その取扱いには注意が必要です。データを取得する際に用途を含めた許諾が取られていることは大前提ですし、もし様々な関連情報が紐づいているローデータを社内で管理する場合は適切な漏洩対策が取られていることが必須となります。

・データソースの把握や、信頼性の高いデータの活用

皆様の会社で直接人流データを取得するケースはレアかと思います。概ねデータホルダー企業や位置情報分析ツールを提供している企業で許諾や漏洩管理等がなされていると思います。 データやシステムを選択する際は、許諾取得や管理等のしっかりとした信頼性の高いサービスであるかもしっかりとチェックすることが大事です。

・専門知識が必要なデータが否かをチェック

ローデータの分析は、データ解析のスキルが必要になることが多いです。一方、既に加工された人流データや、加工済の人流データを可視化までできるツールの場合は、特に専門的な知識がなくとも容易に分析が可能です。
専門知識が必要なのか、解析のスキルがなくとも誰でも活用できるツールなのか、自分たちの目的を達成できるサービスなのか等、サービスを選択する際に事前にチェックをしましょう。

・データの取得時期や範囲を確認する

人流データを活用する際、「データの取得時期や範囲の確認」は重要な観点です。誤った解釈や不正確な結論を避けるために、以下の点に注意する必要があります。

•季節変動: 連休や週末、土日祝等、人流は季節や曜日、時間帯によって大きく変動します。分析を行う際は、データの取得時期が結果に与える影響を考慮しましょう。
•イベントの影響: キャンペーン等のイベント開催や、工事、天候なども人流に大きな影響を与えます。これらの要因がデータ取得期間中に発生していないか確認し、必要であればデータを除外するなどの対応が必要です。
•経年変化: 都市開発、人口変動、商業施設の開業・閉店など、長期的な変化も人流に影響を与えます。過去のデータと比較する場合は、これらの変化を考慮する必要があります。
•地理的範囲: データが取得されたエリアを把握することが重要です。例えば、店舗周辺の人流分析を行う場合、店舗からどの程度の範囲のデータが取得されているかを確認する必要があります。

オープンデータ活用の際の注意点

オープンデータは様々な機関等によって提供されるため、上記注意点以外にデータの正確性や信頼性を確認する必要があります。特にデータの出典元、取得方法、更新頻度などを確認しましょう。
また、リアルタイムなデータと過去のデータがあるため、取得時期も利用目的に合わせてチェックしましょう。
有料データであれば、任意のエリアやスポットに絞った人流データが確認できますが、無料データの場合、提供されているデータの範囲(地域、時間など)のカスタムが難しいため、取得範囲が許容範囲内か否か確認する必要があります。

位置情報データ活用事例資料のCTA

おわりに


さて、本コラムでは、人流データの活用についてのほんの一部をご紹介いたしました。
人流データは、単に人の流れやボリュームを追えるだけでなく、どんな人の流れなのかといった属性や時系列での変化等、より幅広い視点で分析することで、そのエリアや施設・店舗の使われ方や来訪者のニーズ等も推測することができ、またその他のデータと組み合わせて分析することでも多くの示唆を得ることができます。

また、今回のコラムでは、当社開発の人流分析ツール「KDDI Location Analyzer」を使った具体的な事例などもご紹介しましたが、当社では他にも人流が分かる様々な位置情報データを取り扱っております。
それぞれ、用途により適するシステムやデータが変わってきますので、詳細説明をご希望の方はお問い合わせください。


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監修者プロフィール

市川 史祥
技研商事インターナショナル株式会社
執行役員 マーケティング部 部長 シニアコンサルタント
医療経営士/介護福祉経営士
流通経済大学客員講師/共栄大学客員講師
一般社団法人LBMA Japan 理事

1972年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。不動産業、出版社を経て2002年より技研商事インターナショナルに所属。 小売・飲食・メーカー・サービス業などのクライアントへGIS(地図情報システム)の運用支援・エリアマーケティング支援を行っている。わかりやすいセミナーが定評。年間講演実績90回以上。



電話によるお問い合わせ先:03-5362-3955(受付時間/9:30~18:00 ※土日祝祭日を除く)
Webによるお問い合わせ先:https://www.giken.co.jp/contact/



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