エリアマーケティングラボ

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~業界の最新動向~

3つのショッピングセンターの比較分析
~商圏構造の差と出店前後の勢力図の変化を知る(予測から実践まで)~

2021年11月11日号(Vol.104)

■はじめに

今後の出店戦略の勝ちパターンを得るためや、新規出店の立地把握のために、古くより行われている商圏分析。店舗周辺の住民の人口、家族構成、富裕度、消費傾向などを調べるのが一般的ですが、GPS位置情報の活用により、自店舗・他店舗含めた客足や客層をタイムリーに把握できる時代になりました。

このコラムでは、埼玉県川口市にある3つのショッピングセンター(SC)を例に、トラディッショナルな商圏分析に加え、新店オープンによる勢力図の変化を知る手法を具体的にご紹介します。

■3つのSCの商圏構造を知る

今回は下記3つのSCを例に、分析をしていきます。

 ・イオンモール川口(2021年6月オープン)※新店
・イオンモール川口前川(2000年11月オープン)
・アリオ川口(2005年11月オープン)


様々なデータを地図上に可視化し、分かりやすいレポートを出力できるGIS(地図情報システム)MarketAnalyzer® 5を用いて、それぞれの店舗の商圏データで比較していきましょう。今回は足元を見るということで、商圏は半径1㎞に設定しました。

「イオンモール川口(新店)」半径1km圏内の商圏レポート

右上のグラフにある折れ線は年代別の構成比の比較で、緑が全国、赤が埼玉県、青がこの商圏です。他の色の線と比べはみ出している所が特徴といえます。小中学生と40~50代の親世代の所がはみ出しており、成熟しているファミリー層が足元に住んでいる立地と言えます。

右下の棒グラフは家族構成を示しており、埼玉県や全国と比較すると単身層はそんなに多くないことが分かるので、やはりファミリー層が多いと解釈できます。

「イオンモール川口前川」半径1km圏内の商圏レポート

右上の青い折れ線グラフを見ると、20代若者が飛び出しており、親世代となる40~50代、超高齢層が高く出ています。こちらに住む人も成熟していますが、イオンモール川口と異なるのは20代が多いという点。右下の棒グラフで単身世帯も多いことが見て取れます。

「アリオ川口」半径1km圏内の商圏レポート

右上の青い折れ線グラフを見ると、20代後半~40代男女とその子供世代となる0~4歳が突出しておりニューファミリー構造を描いています。また、単身層の比率も高く、高齢者は少ないため、シニア立地ではないことが見て取れます。

このように、場所が違うと商圏構造も異なります。
同じ基準で、同じデータで見ていくと違いが良く分かりますし、違いに応じた施策が考えていけるようになります。

ここまでは、性・年代と家族構成というシンプルな項目で見ていきましたが、これだけでは商圏を理解したとは言えません。
近年エリアマーケティングで使えるデータは進化しており、いろんな側面から分析することができます。
その一つが位置情報データ。次の章では、スマートフォンのGPS位置情報を活用して来訪者の属性や傾向、居住地等を分析できる人流分析ツール「KDDI Location Analyzer」を用いて、3店舗の客層、客足の違いや、イオン川口(新店)が出来たことで、このエリアの3店舗の実商圏、集客力がどう変化したかを見ていきます。


■位置情報の活用で店舗来訪者の傾向を知る

KDDI Location Analyzerの「3地点来訪者属性分析」で、各店舗にどんな人が来ているかを見ていきます。2021年6月8日~7月7日、10時~20時、15分以上滞在という条件で、来訪者の属性を分析したものがこちらです。


3店舗の来訪者分析(年代別)


3店舗を比較すると、イオンモール川口は20代、30代の割合が多く、若者の獲得に成功しているといえます。

時間帯別や時系列で来訪者の傾向を見ることもできます。

3店舗の来訪者分析(時間帯別)


各施設ともピークの時間帯とその「山」が微妙に異なります。
また、イオンモール川口がオープンしてからしばらくの来訪者数の推移がこちらです。

2021年4月1日~7月17日/3店舗の来訪者推移


上記の来訪者推移を、曜日差をならした7日間の移動平均で見てみると、オープン直後の盛り上がりと落ち着き度合いが、よりよく見えてきます。




このように、位置情報データを活用することで、自社店舗だけでなく競合店舗の客足や客層、集客状況などが可視化できるようになります。


■競合店舗の影響を加味して勢力図を予測する

新規出店をする場合、周囲の競合店舗の影響を加味した「グラビティモデル(ハフモデル)分析」をすることで、よりリアルな売上・集客予測ができます。MarketAnalyzer® 5 でも、モデル作成時にトライ・アンド・エラーがしやすい「グラビティモデル機能」が搭載されています。その機能を使い、各店舗の勢力分布がイオン川口の出店前後でどう変化するかを見ていきます。

グラビティモデル分析結果(ハフモデル分析結果)【出店前】

上記が、イオンモール川口出店前の勢力分布です。各店舗への吸引率を町丁目単位で色塗りしたものです。黄色はイオンモール川口前川への吸引が高いエリア、水色のエリアはアリオ川口への吸引が高いエリアで、その色が濃いほど吸引率が高いということを表します。

グラビティモデル分析結果(ハフモデル分析結果)【出店後】

出店後のシミュレーションがこちら。赤いエリアがイオンモール川口への吸引率が高いことを示しています。

出店前後の獲得想定人口と商圏内吸引率
町丁目単位で各店舗への吸引率が計算されているので各町丁目の人口に掛け合わせて商圏単位で合計したものが下記表です。

このように、出店前後で獲得想定の人口や吸引率を可視化できます。
出店候補地をいくつか設定し分析することで、自社店舗の吸引率の高いエリアの選定に活用いただけます。


■実際の勢力図はどうだったのか?

ここまではMarketAnalyzer® 5 を用いてイオンモール川口出店後の勢力図をシミュレートしたものですが、実際の勢力図はどうだったのか、KDDI Location Analyzerを用いて実際の答え合わせをしてみましょう。


位置情報による各店舗への来訪者居住地分布【出店前】
下の図はイオンモール川口(緑色のピン)が出店する前の状態です。
イオンモール川口オープン前の来訪者分布(2021年4月24日~5月23日)


位置情報による各店舗への来訪者居住地分布【出店後】
イオンモール川口が出店した後の各店舗への来訪者居住地分布は以下の通りです。
イオンモール川口オープン後の来訪者分布(2021年6月8日~7月7日)


理論と実践の比較
先程のグラビティモデル(シミュレーション)と位置情報による正解データを比較してみます。いわば理論と実践の比較です。


赤い枠が大体同じエリアですが、視覚的には同じ様子です。


より詳しく見ていくと、MarketAnalyzer® 5 で予測した吸引エリアと、KDDI Location Analyzerで分析した実際の吸引結果を、エリア単位で比較することも可能です。



赤い点線で囲ったエリアは、吸引率が高い、つまりポテンシャルが高いと理論づけられているものの、実際には吸引結果が低いと出ている所です。理論と実践のギャップをデータで把握することで、販促重点エリアの策定などに活用できます。

このように、様々な角度で商圏を分析・把握することで、今の店舗に足りていない施策は何か、効率よく実施するにはどうすればよいか、など多くの知見が得られます


■おわりに

弊社では、今回の分析に活用したKDDI Location Analyzerの無料トライアルを受け付けております。
また、MarketAnalyzer® 5 のトライアルのご相談や、より具体的なデモンストレーションのご紹介も可能です。
詳しくは、こちらよりお問い合わせください。

監修者プロフィール

市川 史祥
技研商事インターナショナル株式会社
執行役員 マーケティング部 部長 シニアコンサルタント
医療経営士/介護福祉経営士
流通経済大学客員講師/共栄大学客員講師
一般社団法人LBMA Japan 理事

1972年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。不動産業、出版社を経て2002年より技研商事インターナショナルに所属。 小売・飲食・メーカー・サービス業などのクライアントへGIS(地図情報システム)の運用支援・エリアマーケティング支援を行っている。わかりやすいセミナーが定評。年間講演実績90回以上。


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