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エリアマーケティングラボ
2020年1月17日号(Vol.99)
全3回の予定で、KDDI Location Analyzer を用いたGPS分析手法について紹介しています。 第1回では、隅田川花火大会開催時のミクロな人の動きを可視化しました。第2回では、都市間移動などマクロな人口流動を可視化しました。今回の第3回では、「投資情報としてのGPS位置情報データ」と題して、位置情報ビッグデータを使った景況把握をご紹介したいと思います。
【第1回:隅田川花火大会開催時のミクロな人の動きを可視化はこちら → https://www.giken.co.jp/column/201911/ 】
【第2回:都市間移動などマクロな人口流動を可視化はこちら → https://www.giken.co.jp/column/201912/ 】
投資の判断根拠の1つとして景況があります。ここでは、GPS位置情報ビッグデータを使って景況を推定できないかを見てみたいと思います。
内閣府が月に1度公表している「景気ウォッチャー調査」という指標があります。またの名を「街角景気」ともいい、こちらの名前はニュースでも聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。これはGDP(国内総生産)など日本全体を調査した指標データとは異なり、街で働いている人にインタビューし、地域ごとの景気動向を集計するというものです。下記のように、庶民的な商店や飲食店などで働く人々からインタビューをして景況の肌感をまとめているというのが特徴です(表1)。
表1: 景気ウォッチャー調査・調査対象(抜粋)
GDPは四半期に一度公表されますが、この調査は月次で実施されており、かつ調査から発表までの周期が短いため、景気動向判断の基礎資料となっています。
ちょうど2019年12月分が2020年1月14日(火)に公表され、2019年1年間の毎月の景況感の数値が出揃いました (図1・小売と飲食の調査結果を抜粋)。縦軸の数値は「DI (Diffusion Index)」と呼ばれる景気指数で、数値が50を上回ると「景気が良い」、50を下回ると「景気が悪い」と感じる人が多いことを示します。今年は年初から50をやや下回っていたところ、10月の消費増税前に駆け込み消費で好況となり、消費増税後に景況感が大きく冷え込んだことが分かります。
図1: 景気ウォッチャー調査結果(季節調整値・抜粋)
しかし景気ウォッチャー調査は全国合わせて2,000名程度のサンプル調査です。ビッグデータを使い、より早く、より網羅的に景況感を占うことはできないでしょうか。
日本有数のオフィス街かつ繁華街である新宿。景気と、週末の新宿への人出の多さには相関があるのではないか。そんな仮説を立てました。
そこでKDDI Location Analyzerの「滞在人口分析」機能を使い、買い物客でにぎわう週末の新宿での滞在人数を月次で性年代別に集計しました(図2)。 新宿周辺に住所も勤務先もない「来街者」※1を集計対象としました。従来型の公的統計では算出が難しかった、街にショッピングや食事に来た来街者の推定人数というわけです。
※1 KDDI Location Analyzerでは、GPS位置情報データの提供者ごとに、推定居住地(直近数ヶ月の夜間に最も長時間滞在した場所)や推定勤務地(直近数ヶ月の昼間に最も長時間滞在した場所)という情報を付与しています。ここでは、新宿駅半径1km圏内に推定居住地も推定勤務地もない人を「来街者」と定義しています。
図2: KDDI Location Analyzer・滞在人口分析画面
人出には季節変動があるため、実数ではなく前年同月比で見ることにしました。「新宿駅周辺の性年代別滞在人数(2019年・月次・前年同月比)」と「景気ウォッチャー調査の景気指数(DI・2019年・月次)」との相関分析を実行した結果、相関係数は以下のようになりました(表2)。
表2: 新宿駅周辺の性年代別滞在人数(前年同月比)と、各業種の景気指数との相関係数
表2では、縦軸のデータと横軸とのデータとの相関係数が示されています。相関係数が大きくなればなるほど、両者の関係性が高いということになります。 相関係数が最大で0.85と、非常に高い正の相関が観察されました。これを見ると、男性よりも女性、若者よりも働き盛り世代やシニア世代の滞在人数が、景況感と関連していることが分かります。買い物や食事でお金を使う主役がこれらの人々だということでしょうか。これらの性年代の滞在人口の大小で、景況を高い精度で推定することができるということになります。
今回の分析ではGPS位置情報ビッグデータのみを使用して景気との関連を見てきましたが、例えばPOSデータなどのビッグデータと組合せることで、より景況感をつかみやすくなるでしょう。これらのデータは速報性に優れており、政府発表を待たずに景況感をつかむことができるというわけです。オルタナティブデータが景気の先行指標として使えるという例です。
GPS位置情報ビッグデータを景況把握に役立てられるもう一つの分野として、製造業があります。上場企業の製造業の業績は四半期ごとに公表されることが一般的であるため、IR情報で企業の直近の状況を追おうとするとどうしてもタイムラグがあるのが現状です。そこで、GPS位置情報ビッグデータの出番です。
昨年3月、ある製造業の上場企業が、「景況の悪化から、5月に主要工場を操業停止する」と発表しました。このことが発表された際、同社の株価はストップ安に陥り、大きな話題となりました。
ではその後、工場は実際に生産調整に入ったのでしょうか。 同社の工場の稼働状況を推測するため、同社工場への来訪人数(≒勤務者数)をGPS位置情報ビッグデータから分析してみたのが下記の図となります(図3)。
図3: 同社工場への推定来訪者数(生産調整前・生産調整中)
3本のグラフは、左から30代・40代・50代を示しています。このとおり、生産調整中の時期は若手の社員が待機に入った可能性がある一方、管理職でしょうか、50代の社員の出勤に大きな変化は見られませんでした。確かに生産調整に入ったであろうことが推測されます。
以上、全3回にわたってKDDI Location Analyzerを使った分析事例をお届けしてきました。滞在人数や来訪者居住地、道路通行量といった、今までなかなか可視化の難しかったデータが容易に取得できるようになったため、コラムでご紹介しきれなかったものも含めて多くの使い道がありそうです。実際、特に欧米では、GPS位置情報ビッグデータを使っての分析が進んでおり、今回ご紹介した経済・金融分野での活用も含めて増えています。
このコラムをお読みの皆様の業界・業種でも、位置情報を含めたビッグデータをどのように活用できるか、一度検討してみられてはいかがでしょうか。
KDDI Location Analyzerサービスサイト : https://www.giken.co.jp/service/kla/
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