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エリアマーケティングラボ
2019年12月19日号(Vol.98)
技研商事インターナショナルでは、KDDI Location Analyzer を用いたGPS分析手法について紹介しています。 前回の第1回では、一つの分析事例として、隅田川花火大会開催時のミクロな人の動きを可視化しました。今回の第2回では、マクロ的な人口流動を可視化する事例をいくつかご紹介したいと思います。
【第1回目のコラムはこちら → https://www.giken.co.jp/column/201911/ 】
1980年代後半、「東京都湯沢町」という言葉がありました。好景気や、関越自動車道が1985年に全線開通したこともあって、新潟県湯沢町に首都圏からスキーファンが大挙して押し寄せたのです。今では幾分落ち着いているといいますが、それでもウィンタースポーツのシーズンになると湯沢の街は大きく賑わいます。
今でも湯沢には首都圏から多くの観光客が来ているのでしょうか。こんなことも、KDDI Location Analyzer を使えば容易に可視化できます。
まず、湯沢町の玄関口の1つ、関越自動車道・湯沢ICにジオフェンス(仮想の境界線)を張ります(図1)。
図1: 関越自動車道・湯沢ICに張ったジオフェンス
図1で赤くなっている部分がジオフェンスです。GPS位置情報ビッグデータを用いて、この赤い部分に入った人数を推定居住地別 に計測したいと思います(図2)。
図2: 関越自動車道・湯沢ICへの来訪者の居住地分布
画面上では湯沢IC周辺の周辺のみ色塗りされる仕様ですが、画面右下の一覧表では全国の全市区町村からの推定来訪者数が一覧表示されます(データのCSVダウンロードも可能です)。この方法で、過去1年間の湯沢IC利用者のうち1都3県の居住者の割合を月別に算出したのが図3と図4です。
図3: 関越自動車道・湯沢ICへの地域別来訪者ボリューム
※KDDI Location Analyzerでは、GPS位置情報データの提供者ごとに、推定居住地(直近数ヶ月の夜間に最も長時間滞在した場所)や推定勤務地(直近数ヶ月の昼間に最も長時間滞在した場所)という情報を付与しています。
図4: 関越自動車道・湯沢ICへの地域別来訪者率
図3を見て分かる通り、スキーシーズンである12月~3月に湯沢ICの利用者が突出しています。そしてその時期には、新潟に比較的近い東京・埼玉など、首都圏からの来訪率が他の時期に比べて大きく出ていることも見て取れます(図4)。 つまり、今でも湯沢は首都圏の多くのウィンタースポーツファンに支えられていると言ってよいのではないでしょうか。
次に、話を西日本に移したいと思います。
このコラムをお読みの皆さまの中には、出張の多い方もいらっしゃるかもしれません。特に遠方への出張の際は、新幹線に乗車するか、それとも飛行機で向かうか、悩まれるケースもあるのではないでしょうか。ここでは、東京から岡山や広島へ行く場合に、皆がどちらの手段で向かっているのか、つまり新幹線と飛行機のシェアがどうなっているのかを見てみたいと思います。
まず、図のように岡山駅と岡山空港にジオフェンスを張ります(図5)。岡山駅に関しては在来線と新幹線がありますので、新幹線の駅部分のみを対象としました。
図5: 岡山駅(左)と岡山空港(右)に張ったジオフェンス
湯沢の例と同じようにして、GPS位置情報ビッグデータを用いて、それぞれの赤い部分に15分以上滞在した人数を推定居住地別に計測しました。集計期間は2019年5月から10月の半年間としています。
こちらのデータを使うことで、1都3県の居住者のうち岡山駅を訪問した人数と岡山空港を訪問した人数とその割合を算出しました(表1、図6)。岡山に行くときに、新幹線で行ったのか飛行機で行ったのかを推測できるというわけです。
表1: 居住地別・岡山への交通手段別推定来訪者数(2019年5月~10月)
図6: 居住地別・岡山への交通手段別推定シェア(2019年5月~10月)
新幹線が約80%と高いシェアを記録しました。岡山空港は岡山中心部からバスで30分ほどの距離があります。飛行機での移動時間が短いことを差し引いてもやはり新幹線のほうに軍配が上がるのでしょう。
それでは、岡山よりさらに距離がある広島ではどうでしょうか。同様にして、1都3県の居住者を対象に、広島駅に滞在した人数と広島空港に滞在した人数を比較してみたのが表2と図7です。
表2: 居住地別・広島への交通手段別推定来訪者数(2019年5月~10月)
図7: 居住地別・岡山への交通手段別推定シェア(2019年5月~10月)
岡山に比べると東京から距離があるため飛行機のシェアが高くなっていますが、今回は少し様子が異なります。ほぼ地域差が見られなかった岡山のケースと比べると、千葉県(新幹線シェア59%)と都下・神奈川県(新幹線シェア70%)とで最大11%の開きがあります。 この原因を探るために、当社のGIS「MarketAnalyzer™」を使って、さらに細かく、市区町村別の新幹線シェアを見える化してみたのが図8となります。
図8: 居住地別・広島へ向かう際に新幹線を選んだ人の割合
市区町村別に、広島へ行く際の新幹線の利用率が高いほど濃い緑色で、新幹線の利用率が低い(飛行機の利用率が高い)ほど薄い緑色で色塗りするよう設定しました。
この図を見ると、神奈川県、東京都の市部、さいたま市周辺で緑色が濃くなっていることが分かります。これらの地域では羽田空港まで距離がある一方、新幹線の新横浜駅や大宮駅へのアクセスが良く、それが新幹線の利用につながっていると推測できます。
一方で、千葉県では「西高東低」、東京から離れていくほど新幹線のシェアが落ちています。千葉県中心部や東部の人は成田空港が近いということ(2019年現在、成田空港から岡山空港行きの便はない一方で広島空港行きの便があります)、千葉県南部の人はアクアラインを経由すれば羽田空港が近いということが関係しているかもしれません。
以上見てきたこのような分析は「OD調査」と呼ばれます。「Origin(出発地) - Destination(目的地)調査」の略で、地域内や地域間の流動を見ることで交通施策や街づくり、観光振興に役立てようとするものです。
地域間流動の公的統計としては、国土交通省より「全国幹線旅客純流動調査」という全国調査が5年に1回公表されています。2019年12月現在で最新なのは2015年版の調査ですが、全体として今回の分析とほぼ同じ傾向となっていました。
ただしこの全国幹線旅客純流動調査では、「都道府県から都道府県」という単位での流動しか公表されていません。今回見てきたような市区町村別の流動となると公的な統計データはありません。GPS位置情報ビッグデータのような粒度の細かいソースが得意とするところです。
全国幹線旅客純流動調査は航空機内や新幹線内で調査票を配って取りまとめるなど、かなり大掛かりなものとなります。GPS位置情報ビッグデータを使えば、そのような大規模な調査を実施する必要もなく、机上調査で粒度の細かい、かつ最新の動向をつかむことができます。このような手法は「スマートプランニング」と呼ばれ、近年急速に普及が進んできています。
トラディショナルデータからオルタナティブデータへ。次回も、KDDI Location Analyzerを使った分析事例をご紹介します。
※KDDI Location Analyzerをご自身でご体感いただけるよう、2週間の無償トライアルをご用意しております。
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2019年12月19日(木)発行の日本経済新聞 電子版に、KDDI Location Analyzerを用いたGPS分析記事が掲載されました。
『「令和初」の年末年始を、スマホからの位置情報データで読み解く』
KDDI Location Analyzerを活用して昨年度の年末年始データから人流分析をおこない、今年度の年末年始の関東圏主要寺社来訪者の傾向や、河口湖への元旦来訪者の属性、新宿で開催される「酉の市」開催期間中の混雑状況を予測し、分析しました。
是非、ご覧ください。
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https://ps.nikkei.co.jp/kddi1912/