技研商事インターナショナル技研商事インターナショナル
エリアマーケティングラボ
2019年11月20日号(Vol.97)
※2025年4月16日更新
位置情報データは、モバイル端末などから取得できる位置に関する情報を含むデータのことです。スマートフォンやGPSデバイスから得られる緯度・経度の座標情報、住所、地名、高度などが含まれます。これらのデータは個人を特定しない形で統計的に処理され、さまざまな分野で活用されています。
位置情報データの最大の特徴は、人々の移動パターンや行動をリアルタイムで把握できる点です。従来の統計データと比較して、更新頻度が高く、直近の動向を反映した分析が可能になります。
また、複数のデータポイントを組み合わせることで、時間的・空間的な変化を捉えることができるため、ビジネスから防災まで幅広い分野で重要性が高まっています。
位置情報データの起源は冷戦時代に遡ります。当初は軍事目的で開発されたGPSシステムが、現在では民間利用を中心に急速に発展しました。当初は航空機や船舶の安全な運航のために利用されていましたが、スマートフォンの普及に伴い、一般消費者向けのサービスやビジネス活用へと広がりました。
現在では5G通信の発展やIoTデバイスの普及により、より精密かつ大量の位置情報データを取得・分析できるようになっています。
位置情報の取得方法には複数のテクノロジーが使われています。それぞれの特徴と仕組みを理解することで、より効果的な位置情報データの活用が可能になります。
GPSは人工衛星からの信号を受信し、その時間差から現在地を特定するシステムです。位置情報を取得するためには、最低4つの衛星からの信号を受け取る必要があります。
衛星からは「現在時刻」と「現在位置」の情報が常に発信されており、モバイル端末などがこれらの信号を受信することで、信号が届くまでにかかった時間から衛星との距離を算出します。複数の衛星からのデータを組み合わせることで、地球上の正確な位置を特定できるのです。
GPSによる位置情報取得は、屋外では10cm程度の高精度を実現していますが、建物内や地下では電波の遮断により精度が落ちるという特徴があります。
Wi-Fiアクセスポイントを利用した位置情報取得は、主に屋内や都市部で効果を発揮します。GoogleやAppleなどの企業がWi-Fiアクセスポイントの情報を収集し、位置情報データベースを構築しています。
モバイル端末がWi-Fiに接続する際、周辺のアクセスポイントのMACアドレスやSSIDなどの識別情報とその電波強度を検出します。これらの情報をデータベースと照合することで、おおよその位置を特定できます。
Wi-Fi経由の位置情報取得は、アクセスポイントが多い地域ほど精度が高くなる特徴があります。
Beaconは「Bluetooth Low Energy」という短距離無線通信技術を利用したデバイスで、常に特定の信号を発信しています。スマートフォンなどがこの信号を受信することで、より精密な屋内位置情報を取得できます。
もともとは雪山での遭難者捜索などに使われていた技術ですが、現在では商業施設内の顧客動線分析やプロモーションなどにも活用されています。GPSが届かない屋内でも位置情報を取得できる点が大きな特徴です。
携帯電話の通信基地局を利用した位置情報取得は、最も基本的な方法の一つです。モバイル端末は常に最寄りの基地局と通信しており、複数の基地局からの電波強度を測定することで、おおよその位置を特定します。
基地局による位置情報取得は、精度はGPSより劣るものの、バッテリー消費が少なく、建物内でも機能するという利点があります。基地局の密度によって精度が変わるため、都市部ほど正確な位置情報を取得できます。
位置情報データの精度と信頼性は、取得方法や環境条件によって大きく左右されます。GPSは開けた屋外で最高の精度を発揮しますが、高層ビル街では「アーバンキャニオン効果」と呼ばれる電波の反射により精度が低下することがあります。
Wi-FiやBeaconは屋内での精度が高い一方、これらのインフラが整備されていない場所では利用できません。基地局による位置特定は広範囲をカバーできますが、精度はその他の方法に比べて低くなります。
実際のアプリケーションでは、これらの取得方法を組み合わせたハイブリッド測位が採用されることが多く、環境に応じて最適な方法が自動的に選択されます。
位置情報データは様々な分野で活用されており、その用途は年々拡大しています。ここでは主要な活用分野と具体的な事例について解説します。
小売業や飲食業では、出店戦略の立案や店舗運営の最適化に位置情報データが活用されています。従来は実地調査に多くの時間と労力を要していましたが、位置情報データを分析することで効率的に候補地選定を行えるようになりました。
例えば飲食チェーン企業において、リブランディング実施後の効果測定に位置情報データを活用することも可能です。来店客の属性や行動パターンを分析することで、マーケティング戦略の精度を高めることに寄与するでしょう。
また、在庫・発注管理においても、過去の人流データから需要予測を行い、フードロスなどの「無駄」を削減する取り組みに活用することも可能です。
不動産業界やデベロッパーにとっても、位置情報データは重要な判断材料となっています。商業施設や住宅地の開発計画において、エリアの人流データを分析することで、最適な施設配置や規模を決定できます。
大型複合施設の運営では、テナントに来訪者情報を提供することで差別化を図り、施設全体の売上向上につなげる事例も見られます。また、時間帯別の人流データを分析することで、効果的なイベント開催時期や広告展開のタイミングを決定できます。
多くの自治体が観光振興や地域経済活性化に位置情報データを活用しています。観光客の動線分析や滞在時間、リピート率などを測定することで、より効果的な観光プロモーションや施設整備を計画できます。
例えば隣接する地域からの人流を分析して経済の活性化に役立てたり、観光地では人の動きの変化を分析し、新たな施策立案に役立てている事例が増えています。
災害時の避難誘導や復旧対応にも位置情報データは大きく貢献しています。平時の人流データを分析することで、災害発生時に人が集中しやすいエリアを特定し、効果的な避難計画を立案できます。
災害発生後は、リアルタイムの位置情報データを活用して被災者の位置を把握し、救助活動や物資供給の優先順位を決定することができます。また、各自治体が作成するハザードマップにも位置情報データが活用されており、より実態に即した防災計画の策定に役立てられています。
公共交通機関やタクシー、配車サービスなどでは、位置情報データを活用して運行計画の最適化を図っています。時間帯別・エリア別の需要予測に基づいて、効率的な配車や運行ダイヤの調整を行うことができます。
混雑緩和のための施策立案にも位置情報データは重要な役割を果たしています。特定の駅や道路における混雑状況を分析し、利用者の分散化を促す施策を実施することで、全体の移動効率を向上させることができます。
位置情報データを活用したマーケティング手法(ジオマーケティング)は、近年急速に普及しています。顧客の移動パターンや滞在場所を分析することで、より効果的な広告配信や販促活動が可能になります。
特に注目されているのが、位置情報に基づいたターゲティング広告です。ユーザーの現在地や行動履歴に合わせて関連性の高い広告を配信することで、高い広告効果を得られます。また、競合店舗との比較分析や、出店候補地のポテンシャル評価にも位置情報データは活用されています。
位置情報データを分析するためには専用のツールが必要です。ここでは主要な位置情報データ分析ツールとその特徴を紹介します。
位置情報データ分析ツールは、データソースやUI、分析機能の違いによって複数の種類があり、主に以下のような分類があります。
1. 通信キャリア提供型:NTTドコモやKDDIなどの通信キャリアが自社の回線利用者から取得したデータを基にしたツール
2. アプリ連携型:特定のアプリ利用者から取得したGPSデータを基にしたツール
3. オープンデータ活用型:公的機関などが公開するデータを組み合わせて分析するツール
選定の際は、データの網羅性、更新頻度、UIの使いやすさ、カスタマイズ性などを総合的に判断する必要があります。
上記の「1. 通信キャリア提供型」に当てはまる、KDDIと技研商事インターナショナルが共同開発した位置情報データ分析ツール「KDDI Location Analyzer」について実際の事例も交えて紹介いたします。
KDDI Location Analyzer は、auスマートフォンの位置情報ビッグデータ(※1)を地図上に可視化し、セルフ分析のできるツールです。Webアプリケーションのため、PCにソフトウェアをインストールする必要もありません。契約完了後すぐにブラウザから利用できます。
(※1)位置情報ビッグデータとは、KDDIがauスマートフォンユーザー同意のもとで取得し、誰の情報であるかわからない形式に加工した位置情報データおよび属性情報 (性別・年齢層)を指します。
auスマートフォンユーザーの同意のもとで取得した性・年代の情報を紐づけており、属性付きでの分析が可能となっています。また、高精度なGPS位置情報データ(内部的には最短2分間隔、最小10mメッシュ単位)を用いているので、例えば直近の道路単位の通行量や、店舗などの施設来訪者の分析が可能をすることができるというものです(図1)(表1)。
もちろん、日本人全員がauのスマートフォンを利用しているわけではありません。このためKDDI Location Analyzerでは全人口推計(拡大推計)に対応しています。実人数に近い人口動態をつかむことができるというわけです。
先述の通り、国勢調査などの公的統計データは更新頻度が低く(国勢調査は5年に1回。2024年9月現在では2020年調査が最新)、また滞在人口の分析もできません。もちろん国勢調査は全数調査であり、日本中を網羅した信頼できるデータですが、一方で弱点があるのも事実でしょう。
その弱点を補強・補完できる「オルタナティブ(代替的)」なデータ分析ツール、それがKDDI Location Analyzerなのです。
ではKDDI Location Analyzerではどのような分析ができるのでしょうか。次の章で、最近のイベントを例に人の動きを実際に分析してみました。
今回は2019年7月27日(土)に東京で開催された第42回隅田川花火大会を例に、KDDI Location Analyzerでどのような分析ができるのか見ていきます。
隅田川花火大会の開催日を指定し、花火打ち上げ会場周辺1kmの滞在人口を取得したのが図2です。125mメッシュという細かい粒度で区分けされており、滞在人口の多い順に赤、黄色、緑という3色の色分けで表示されます。
比較のために、前週同曜日の滞在人口マップも取得しました(図3)。
明らかに違いが分かると思います。両日とも、浅草駅前・押上駅前・東京スカイツリーといったエリアはやはり赤く(滞在人口が多く)表示されていますが、それに加えて花火大会当日は、花火打ち上げ会場の隅田川沿いが黄色くなっています。それだけ多くの人が隅田川沿いで花火を楽しんだということでしょう。
もう少し詳しく見て見ましょう。道路ごとの通行量を表示する「主要動線分析」機能で、会場付近の道路通行人数を可視化しました(図4)。
こちらは、花火が打ち上げられた時間帯、2019年7月27日 18時-21時の徒歩通行者客のデータです。隅田川沿いや橋の上など、花火の見やすい場所が赤くなっていることが分かります。特に、メイン会場目の前の道路の通行人数はわずか3時間で7,068人と、相当の人出であったことがうかがえます。
では、どんな人が花火を見に来たのでしょうか。時間帯別・年代別の来訪者の滞在人口を調べることで、その手掛かりが見えてきます。
ここでは、地元以外の地域からの流入の実態を見える化しました。居住者(周辺住民)や勤務者(周辺勤務者)を除いた「来街者※2」 に絞って時間帯別・年代別の花火大会会場周辺の滞在人口を集計したのが以下のグラフです(図5、図6)。
※2 KDDI Location Analyzerでは、GPS位置情報データの提供者ごとに、推定居住地(直近数ヶ月の夜間に最も長時間滞在した場所)や推定勤務地(直近数ヶ月の昼間に最も長時間滞在した場所)という情報を付与しています。ここでは、花火大会会場付近に推定居住地も推定勤務地もない「来街者」の動態を可視化しています
人の動きが全く違っています。平時は昼間の滞在が最も多いのに対して、花火大会当日は、花火の打ち上げ時刻(18:15-20:30)に合わせて、滞在人口がピークに達しています。花火大会が終わると人が一気に引くことも見て取れます。
さらに、年代別の傾向を見て見たいと思います。平時に比べて、花火大会開催時に何倍の人数が来訪したのか、年代ごと・1時間ごとに可視化したのが以下のグラフです(図7)。
20代の来訪が花火打ち上げ前・花火打ち上げ中とも突出しています。隅田川沿いの浅草・向島エリアというと、若者の街というイメージはあまり高くありませんが、これだけの数の若者が押し寄せるとなると、地元としても地域をアピールするチャンスといえます。
以上、隅田川花火大会をテーマに、様々な観点から当日の様子を見てきました。ここまでリアルな人の動きは、従来型の調査では決して取ることのできなかった情報ではないでしょうか。
こういったグラフを多層的に見ることで、
位置情報データは有用なツールですが、活用にあたっては複数の課題があります。最も重要なのはプライバシー保護の問題です。位置情報は個人のプライバシーと密接に関連するため、適切な匿名化処理や同意取得のプロセスが不可欠です。
日本では個人情報保護法に基づき、位置情報データの取り扱いには厳格なルールが適用されています。通信キャリアやアプリ提供事業者は、ユーザーからの明示的な同意を得た上で、個人を特定できない形に加工したデータのみを分析に使用しています。
また、データの精度や信頼性の問題もあります。サンプル数が少ない地域や時間帯では統計的な信頼性が低下するため、分析結果の解釈には注意が必要です。
位置情報データの活用は今後さらに拡大していくと予想されます。5G通信の普及により、より高精度かつリアルタイムな位置情報データの取得が可能になり、新たなサービスが生まれる可能性があります。
特に注目されるのはAIとの連携です。機械学習やディープラーニングを活用することで、位置情報データから人々の行動パターンを予測したり、異常検知を行ったりする技術が発展しています。これにより、より精度の高いマーケティングや災害予測などが可能になるでしょう。
また、IoTデバイスの普及により、人だけでなく物の動きも含めた総合的な位置情報分析が進むと考えられます。これはスマートシティの実現や物流の最適化などに大きく貢献するでしょう。
位置情報データは、かつては単なるナビゲーション機能としての役割しかありませんでしたが、現在ではビジネス戦略の立案から防災計画まで、幅広い分野で重要な役割を果たしています。
位置情報データの活用には、プライバシー保護などの課題もありますが、適切な匿名化処理と同意取得プロセスにより、個人情報を保護しながら社会的価値を創出することが可能です。5G通信の普及やAI技術の発展により、位置情報データの活用はさらに広がりを見せるでしょう。
様々な分野での課題解決に貢献する位置情報データの活用方法を理解し、自社のビジネスや地域社会の発展に役立てていくことが、今後ますます重要になっていくことでしょう。
また、今回のコラムでは、当社開発の人流分析ツール「KDDI Location Analyzer」を使った具体的な事例などもご紹介しましたが、当社では他にも人流が分かる様々な位置情報データを取り扱っております。
それぞれ、用途により適するシステムやデータが変わってきますので、詳細説明をご希望の方はお問い合わせください。
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監修者プロフィール市川 史祥技研商事インターナショナル株式会社 執行役員 マーケティング部 部長 シニアコンサルタント |
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医療経営士/介護福祉経営士 流通経済大学客員講師/共栄大学客員講師 一般社団法人LBMA Japan 理事 1972年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。不動産業、出版社を経て2002年より技研商事インターナショナルに所属。 小売・飲食・メーカー・サービス業などのクライアントへGIS(地図情報システム)の運用支援・エリアマーケティング支援を行っている。わかりやすいセミナーが定評。年間講演実績90回以上。 |
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